チームの「納得感」がビジネスを加速させる
ユーザーフォーカスなマーケティングは具体的にどういうことか。河野氏は自らの経験に基づき、マーケターが陥りがちな「近視眼的な施策」に警鐘を鳴らした。
たとえば、新規ユーザー獲得が目標だとしよう。マーケターは、コンバージョンの改善を目的に、ランディングページや入力フォームの最適化に集中しがちだ。そんなときにはまりやすい落とし穴が、「コンバージョンは増えたが、ユーザーの契約継続率が下がっている」という状況だ。
もちろん、ボタンを大きくしたり、フォームの入力数を減らしたりすることにはそれなりに効果がある。だが、ユーザーの気持ちで考え、本当に価値があるものを提供することの方がもっと大事なのだと河野氏は訴える。ユーザー理解という土壌があって初めて、本質的な価値提供ができるというわけだ。
「せっかくサイトに来たユーザーを、強引にコンバージョンさせようとしても本質的ではありません」と河野氏。
そうは言っても、マーケターが全てのユーザーを理解し、本質的な価値提供を実現するのは難しい。もし、施策に係るのがマーケティングチームだけの場合や、特に担当者が一人だけの場合は、KPIを追いかけ回すことに夢中になり、近視眼的になるというリスクがある。
組織の中に一人優秀なマーケターがいればいいというわけではない。河野氏は、日頃からユーザーとの接点を持つカスタマーサポートをはじめ、デザイナーやエンジニアとのコミュニケーションを取りながらメンバーの知見を借りるなど、協力を得ることでマーケティングチームの考え方をユーザーフォーカスにしていくことが重要と訴えた。
チームで行った施策の例として、河野氏はMFクラウドシリーズの「診断コンテンツ」を挙げた。これは、MFクラウド会計・確定申告の導入を検討している人たちに向け、サービス導入によってどれだけ業務が効率化されるかを可視化するコンテンツだ。
診断コンテンツでは、実際のユーザーアンケート調査の結果を基に「導入効果」をイラストやチャートを用いて効果的に表現している。具体的には、「導入で削減した時間」「削減できる人件費」「実際のユーザーの満足度」の3つの数字指標を可視化している。
ユーザーとしては、MFクラウドの機能や料金もさることながら、導入効果と実際のユーザーの声が気になるところ。そのため、ページ遷移数や情報量が増えることでのCVRが下がる可能性については割り切り、ユーザーが何を知りたがっているか、そしてそれをどう伝えるかに注力したと河野氏。
結果的にCVRは向上し、懸念していた初期ユーザーの離脱も少なかった。このように、立場の異なる人たちも関与すれば、ユーザーフォーカスを徹底できるというわけだ。河野氏は「自分たちがユーザーに価値を提供しているという納得感が、ビジネススピード加速につながるのです」と話した。