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リゾームマーケティングの時代

テレビCM崩壊前夜、「イノベーションのジレンマ」に陥っている暇はないのだ

「マス連動」と「リゾーム化社会」

 私がそのような思いを抱くようになったのは、2000年ごろからだ。そもそも、自分自身がテレビをほとんど観なくなっていた。「このままでは、テレビは、テレビCMは、マズイのではないか?」。そんな気持ちから、テレビCMに検索キーワードを挿入することを思い付き、「マス連動」と名付けて提案したのが2004年。

 当時は、博報堂と仕事をしていて、日本で最初にトヨタ自動車「イスト」のCMに採用された。その後2005年、三井不動産のCM「芝浦の島」で、検索ボックスの中に検索キーワードを記載するスタイルが確立され、一気に普及した。

 この「マス連動」を考案した背景は、私がフランスの思想家ドゥルーズ=ガタリに影響され、「ネットはリゾームという思想を具現化したものだ」と考えるようになっていたからだ。

 この連載の最初にも書いたが、『リゾーム…序』(ジル・ドゥルーズ、フェリックス・ガタリ[著]豊崎 光一[翻訳]朝日出版社)などの著作を学生時代に読み、その後にネット業界で仕事をしていく中で、ネットによって社会がリゾーム化していると実感していた。私はそれを「リゾーム化社会」と名付けた(これまでの連載を参照)。

 「マス連動」施策は、テレビCM用に提案した後に、新聞・雑誌、OOH・デジタルサイネージ、そして、ラジオにも提案した。私の意図は、社会がリゾーム化する中で、そこで流通する情報やコンテクストに、テレビをはじめとしたマス広告を組み込むことだった。

 なぜなら、「リゾーム化社会」の中で流通しない情報は、その社会の人間にとっては存在しないのと等しいからだ。マスメディアはそれぞれが切り離されていている。そのままでは、社会のリゾーム化につれて、マスメディアの存在意義が低下していく。

 「マス連動」施策は、「テレビCM接触」→「キーワードで検索」→「検索連動型広告をクリック」→「ランディングページへアクセス」→「コンバージョン」という流れを意識して設計。

 その結果、実際に、テレビCMやブランドに関する検索ボリュームが増加し、ランディングページへのアクセスが増加、コンバージョンも増加するというケースがいくつも生まれた。もちろん、失敗したケースもあるのだが、結果は概ね良好で、当時はテレビCMの価値を再評価するクライアントが出てきていた。

「リゾーム化社会」とテレビを接続する試み

 また最近では、「リゾーム化社会」とテレビを接続するチャレンジとして、テレビ朝日の番組「#モデる」の企画を支援(参考情報)。「テレビ番組~テレビCM~SNS~Webサイト~EC/店舗」を連携したコミュニケーションをデザインした。テレビ朝日のスタッフによれば、番組名にハッシュタグ(#)を付けたのは初めてらしい。

 「#モデる」は、コメ兵の1社提供で、2016年4月3日より毎週日曜日の23時10分~23時15分に関東エリアで放送された(いわゆるミニ枠)。関東在住の20代・30代のファッション好きな女性がターゲット、彼女たちが日常的に使っている Instagram・Facebook・Twitterでの接触と拡散を意図し、それがテレビ視聴率にも跳ね返ってくるという好循環を狙った。

 はじめから2クールの予定だったため、番組は終了しているのだが、番組開始当初のF1の視聴率に比較して、最高で約7倍、夏以降は平均して3~4倍の数字に、F1だけが上がった。テレビ朝日のスタッフからは「過去にF1だけがこんなに上がった番組はない。しかもミニ枠で」と聞いた。

 私は、「リゾーム化社会」にテレビを組み込むことで、コミュニケーション・デザインに拡張性が加わり、適切なターゲットにリーチしやすくなると考えている。その結果、意図した情報の流れが生まれやすく、ターゲット層(ここではF1)の視聴率だけが上がったのだと考えている。

 「マス連動」も「#モデる」も、大した影響力ではないが、少しだけテレビビジネスを下支えできたかもしれない。つまり、逸見さんへの恩返しが、1ミリぐらいできたかもしれない。

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テレビCM崩壊のカウントダウンは既に始まっている

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この記事の著者

有園 雄一(アリゾノ ユウイチ)

Regional Vice President, Microsoft Advertising Japan

早稲田大学政治経済学部卒。1995年、学部生時代に執筆した「貨幣の複数性」(卒業論文)が「現代思想」(青土社 1995年9月 貨幣とナショナリズム<特集>)で出版される。2004年、日本初のマス連動施策を考案。オーバーチュア株式会...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2018/05/18 08:00 https://markezine.jp/article/detail/28357

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