オン・オフをまたいだデータドリブンが標準に
――なるほど。片や、KDDIさんは以前からテレビCMをはじめ相当のマス広告を活用し、そこから近年ではデジタル広告も活用されるようになった経緯があります。その立場から、テレビCMとデジタル広告に対する所感や取り組みをうかがえますか?
山本:まず組織体制からお話しすると、我々が所属するコミュニケーション本部の中に、宣伝部とデジタルマーケティング部が併存しているのが現状です。部は分かれていますが常に連携し、視聴率以外のテレビのデータも取り入れて、デジタルを含めて包括的に把握しながらデータドリブンに回していくことをスタンダードにしたいと考えています。私は元々マスの宣伝領域が長く、この数年デジタル領域を担当した後、また去年から宣伝部のメディアの部分を中心に見ています。
森:私は逆にずっとデジタルに根差していて、途中DeNAへの出向を経て昨年からマスメディアに携わるようになりました。なので、マス広告の活用の課題は日々感じています。
山本:ひと昔前に私がマス広告を扱っていたときは、視聴率とコストですべての効果効率を図ろうとしていて、それ以外の「データを取得する」という意識すら皆無でした。それに比べると、様変わりしつつあると感じます。
――両社では、実際にどういったデータを活用しているのでしょうか?
鋤柄:当社だとメルカリのサービス拡大がテレビCMの目的なので、以前はそれに直結するインストール数、デジタルでいうCPIでその効果を測っていました。ですが、テレビCMを始めたころは200万ほどだったインストール数が現在は7,000万を突破しており、デイリーのインストール数も初回CM放送時と比較すると何倍も増えています。母数が増えてきている分、テレビCMによるインストール数のリフトが見えにくくなっています。そこで代わりに視聴質を把握して、メディアとクリエイティブの最適化に活かしています。加えて、そもそもテレビCMとそれ以外のオフライン施策全体での効果を測るため、自社で定期的にリサーチをしていて、認知やマインドシェア、サービスイメージなどいくつかの指標を定点観測しています。
クリエイティブの最適化にどこまでデータを活かせるか
――なるほど。逆に、視聴率はあまり気にしていないのですか?
鋤柄:その数値だけでは、判断材料にはしていないですね。視聴率と視聴質、ターゲット含有率などを組み合わせて、テレビCMのキャンペーンごとに独自に評価して、次のバイイングに活かすという形で使っています。
――KDDIでのテレビCM活用は、単一のサービス拡大とはまた違う目的になってくると思いますが、具体的にどういう観点で評価しているのですか?
森:ご指摘のように、当社がテレビCMを入り口として最終的に得られる成果の種類は非常に多いです。回線契約やID獲得がCPIにあたりますが、メニュー変更やオプションの促進などアクションがたくさんあるので、それを一つひとつコンバージョンとして追跡するには無理があります。なので、テレビCM全体を評価する観点は「より多くの人に効率的にリーチできたか」と、もうひとつはクリエイティブ、この2つです。 前者は視聴率や視聴質、その他のマーケティングデータを使って、独自に分析しています。後者は、視聴者に「楽しんでいただけているか」「興味を持って観てもらえているか」が大事になるので、パネル調査などを通して定性的な反応や想起効率などを踏まえて分析し、評価しています。
――クリエイティブに対する興味関心の分析は、以前からされていたんでしょうか?

山本:調査自体は以前から行っていますし、第三者調査でもテレビCM好感度調査などは昔からあると思います。ただ、調査結果の分析は深化していると思いますね。我々も、単にテレビCMを楽しんでいただいて終わりというわけにはいかないので、一見同じように好評だったテレビCMクリエイティブでも、どの要素が認知や内容理解に効きうるのかといった項目を追加して、効果を深掘りするよう意識しています。
――より細かくクリエイティブを分析できるようになっているのですね。とはいえ、クリエイティブを評価して改善していくのは難しいのでは?
森:そうですね、どれだけデータが得られるようになっても、クリエイティブのPDCAはとても回しにくいのが現状です。当然、クリエイターの発想も数値化できないので、簡単に方程式を作れない。
山本:仮に楽曲やストーリー性などの各要素でポイントを見出せたとしても、次に同じクリエイティブを作るわけにもいかないですし。フィードバックの難しさがありますね。クリエイティブの部分は、データも重視しながらも、やはり世の中に新しい価値を提示してお届けする姿勢が大事だと思っています。我々の部門内では、そういうマインドを持ちながら、クリエイティブ作りに取り組んでいます。
