枠×クリエイティブで効果の最大化を図る
――出稿枠の評価について、もう少し詳しくうかがいたいと思います。視聴率以外のデータを踏まえて検討すると、視聴率は低くても自社にとっては適切だ、出稿すべきだという枠もあるのだろうと思いますが、そういった視点で何か実際にチャレンジしていることなどありますか?
鋤柄:その点では、今お話に挙がっていたクリエイティブの最適化を考えています。現状メルカリのテレビCMのクリエイティブ本数は年間20本弱とかなり多く、キャンペーンごとに毎月変えており、月に2本流すこともあります。サービス自体はオールターゲットでも、クリエイティブはターゲットやメッセージを絞り込まないと、15秒や30秒の中ではぼやけてきてしまうので。それらのクリエイティブごとに、前述の指標を用いてどの枠で放送するのが最適なのかを分析し、次の買い付けに活かすつもりです。
――KDDIは、本当にいつテレビをつけてもテレビCMに接触するくらい出稿量が多いと思いますが、テレビのデータを活用することで、買い付け枠の調整などしているのでしょうか?
森:そうですね、タイムとスポットで買い方が違いますが、まずタイムでは、それこそ視聴の質を重視して番組を選定しています。その際の観点も、細かいターゲット含有率よりも、ターゲットは広く捉えて「注視度の高い番組内のテレビCMチャンスか」に重きを置いていますね。
そもそもテレビでもデジタルと同様に、マーケティングデータをもっと取得したいと思ったのは、視聴率ではない指標で番組を評価して、まだ他の広告主が気づいていない“おいしい”番組を見つけたかったからなんです。実際そうやって選んだマイナーな番組が、翌年には一気に人気番組になったときには、データの使い方が間違っていなかったという手応えがありましたね。 一方スポットは、今まさに課題があるところです。いつもテレビCMが流れているように見えるのは全日で買い付けているからなんです。裏を返せば、質で選べていないわけですね。
――昼間がいい、週末がいいといった判断を、現状のテレビデータではできない?
森:スポットはタイムよりもオールターゲットのため、あまりターゲットでの絞り込みや質の評価をしていないのが現状です。また、質を求めると単価が上がり、出稿本数が減ってしまうので、我々の事業の性質上、単価を下げて出稿量を保ち、その上で効率を上げるという方向で今は進めています。とはいえ、誰も注視していないのは困るので、質は見ていきたい。そこをどう現状にフィットさせるかが課題です。
質を求めれば単価が上がる 効果と効率のバランス
――そういった新しい課題や取り組みを進めるにも、代理店やデータ提供社との連携が重要になってきますが、その体制構築について取り組みなどをうかがえますか?

鋤柄:当社では今、当社と代理店さん、そして視聴質データを扱うTVISION INSIGHTSさんの3社でチームを組み、データを共有・分析しながら改善にあたっています。少し前は当社のスタッフを視聴質データのチェックや分析にあてていたのですが、まだ当社も小さい組織なので、人を一人張り付けるのは厳しく、中途半端になっていました。そこで、もちろん共有できない社内データもありますが、このような座組みで今走り出したところです。
――なるほど。代理店としては、そこでテレビの効果をしっかり示せないと、デジタルに予算が寄ってしまうこともある?
鋤柄:予算の全体最適化を考えると、あり得ますね。我々マーケティングのグループには、テレビCMを含めたオフライン施策、デジタル、それとアプリ内でポイントやクーポンを活用したりタイアップのキャンペーンを企画してグロースする施策を実行するチームがあります。ポイントグロースが最も短期で効果が出やすく、次にデジタル、最後がオフラインなので、どうしても数字のみで判断しようとすると短期の施策に予算が寄りがちです。テレビCMはいちばん中長期的な施策で可視化しにくいと理解していますが、それも含みつつできるだけデータ化して、最適なアロケーションにしていく考えです。
――確かに、テレビCMは効果が可視化されないからやめていいかと言うと、そうではないですよね。
山本:そこは判断が難しいところです。特に当社の事業だと、年単位で1回あるかどうかの「携帯を変えたい」と思ったときに想起してもらうことが重要なので、打ち続けることによってマインドシェアを獲得・維持することが必要です。そのために好感に加え、先進性や勢いのあるイメージも大事だと考えています。ただ、その好感がビジネスにどのようにつながっているのかの可視化は、引き続きの課題と捉えています。
枠の次はコンテンツ評価 広がるデータ活用の可能性
――ちなみにKDDIでは、社外との協力体制はどうされているのですか? テレビ関係だと、ときに代理店のテレビ担当のほうが企業よりも意識が遅れているという意見もあるようですが、そのあたりのギャップを感じられることはないのでしょうか?

森:まず体制としては、視聴質やその他のテレビデータを代理店さんとTVISION INSIGHTSさんに協力いただき、データを出し合いながら、常に分析しています。意識のギャップについては、正直、1年ほど前まではありました。当社もデジタル領域に近いライフデザイン企業として、デジタルデータの重要性は早くから認識していたので。ただ、最近は全体的にテレビ業界にもデジタルの常識が入っていっているので、いわゆる“テレビマン”と会話がしやすくなった感覚はあります。
――ありがとうございました。最後に、今後もテレビ施策をデータドリブンで進める上で、展望をそれぞれうかがえますか?
鋤柄:どの手段を使ったとしても、我々のゴールはメルカリというサービスがしっかりとユーザーに届いて使われることです。そのゴールに向けたテレビ施策については、クリエイティブは感情の部分も大きいので、まず枠の最適化をデータでしっかり進めていきます。また、最近ではインフォマーシャルを強化したり、地方だとメルカリ自体で番組制作も試したりしているので、そうした枠の最適化にも各種のテレビデータを使っていきたいですね。さらにコンテンツの評価にもデータを落とし込めると、また新しい知見が得られると思います。テレビのパブリシティ効果も大きいことがわかっているので、その影響力も含めて把握して施策に活かしたいです。
森:私もコンテンツ制作に関心があります。直近でもテレビ局と共同で、auスポンサードの番組内で、スマートフォンを使ったリアルタイムの企画に参加してもらったり、視聴者参加型のライブCMを体験してもらったりしています。各種デジタルデータは、その企画にも役立つのではと考えています。ただ観るだけでなく、スマートフォンや番組と連動した双方向CMが常識になるとおもしろいですね。
山本:そうした新しい策への挑戦も、当社の根底に「皆さんをワクワクさせたい」という思いがあってこそです。顧客体験価値を高めるには、まず顧客を知ることが大前提になるので、当社としては今後もそれを重視しながら、次の一手を模索したいです。このスピードが速い時代、テレビを含めてどんな施策もデータドリブンで進める以外に選択の余地はないと思うので、小さくトライしながらPDCAを回して、うまくいったものを拡大していくという発想が大事になると思います。
