広告で街をベイスターズ色に
――北と南で、生活動線にどういった違いがあるのでしょうか?
横浜の北側に居住している人は、そこから東京方面へ仕事に通う人が比較的多いです。一方で南側の人は、横浜が勤務地だったり、東京が勤務地の場合でも横浜を経由したりするなど、生活の中心も横浜にある。だから平日でも仕事帰りにふらっと球場に来たりしやすいのだと思います。
こういった人の動線を、もう少し探りたいと思っています。スタジアムに来るまでに通ってくるエリアなどもわかれば、新たな施策の打ち方も見えてきますし、我々のPRかつ街の活性化にもつながる方法もあるのではと考えています。
――なるほど。広告戦略は、どのような方針で展開しているのですか?
現在は来場を直接促すよりは、街ににぎわいを創出するという観点が大きいです。出稿が多いのは交通広告で、電車やバス、駅貼り、街中のフラッグなどですね。広告的な目的に加えて、街を装飾するという意味合いで、「ベイスターズの街なんだ」という雰囲気作りを重視しています。
仮に試合に対する広告を出しても、一度も来たことがない人がその広告をきっかけに来てくれるとは、あまり考えられません。それよりも、もし誰か友達に声をかけられたときに「そういえば盛り上がっているみたいだから、行ってみようかな」と思ってもらえることが大事だと思うんです。あるいは、一度来た人に「そういえば楽しかったな」と思い出してもらう、リマインド的な意図もあります。
2015年末に、県内小学生約70万人にベイスターズのキャップを配布したのも、その一環ですね。街や公園にキャップをかぶった子がたくさんいると、ベイスターズの街だねという雰囲気につながる。CSR活動として紹介されましたが、これはある種のブランディング広告ですね。チームが強くなったことと、こうした活動との相乗効果で、以前は試合後に関内駅でユニフォームを脱いでいた人が、着たまま電車に乗るようになった。すると横浜外の人の目にも多く触れるので、いい傾向ですね。
目指すは横浜をスポーツ版シリコンバレーに
――では、“街の活性化”として推進されている「横浜スポーツタウン構想」についてうかがえますか?

昨年中に既に、シェアオフィスなどを備えた複合施設をオープンしたり、横浜市と包括連携協定「I☆YOKOHAMA協定」を結んだりと、ニュースが相次いでいます。
そうですね。元々、球団創設時より、横浜スタジアムや横浜公園ににぎわいを生み出そうという方針があり、スタジアム周辺で様々な取り組みを進めていました。それらをもう一歩進めて、より広範囲で街レベルの活性化につなげるべく立てたのが、この構想です。
背景には、増築・改修の話が上がっていたことがあります。この2、3年で球場稼働率がどんどん高まってチケットが入手困難になり、また2020年の東京オリンピック・パラリンピックでの野球とソフトボールの主会場に決定しているため、より多くの方に楽しんでいただけるようにと計画を立てました。具体的には現状の約2万9,000人から、スタンド上部に観客席や個室観覧席を増築して、3万5,000人規模にする予定です。
ただ、現在の我々のプロ野球はホーム70試合前後で、365日中では2割程度しか稼動していません。今もアマチュア野球やコンサートなどの稼動はありますが、もっと有効活用すれば、より街のにぎわいや皆さんの楽しみに貢献できると考え、興行日以外もいろいろな企画でスタジアムを活用し、より地域に密着した存在になろうと打ち出しました。同時に、横浜市庁舎の移転にともなって街の形が大きく変化するので、スポーツ関連企業の誘致を進めるなど、この地域をスポーツ文脈でビジネスを始めるのに適した、シリコンバレーのスポーツ版のようにしていきたいと考えています。
――今後の展開が楽しみですね。では最後に、集客のためにどういった考えが大切か、教えてください。
ひとつは、自社の動員のエンジンを見つけることだと思います。言い替えると、一度来たらまた来てくれそうな人たち。我々の場合はそれが発信力の強いアクティブサラリーマンで、彼らに有効な施策や雰囲気作りでここまで成長できたと思います。
また、無料招待や割引をすれば一時的に人は来ますが、無料でしか来ない人を優遇しても後が続かないので、狙いを絞ってトライアルを促すことが有効だと思います。たとえば我々は横浜市の協力で、新しく転入してきた方へ区役所で配布する資料に、招待チケットの案内を入れているんです。横浜に引っ越してきたから一度、ベイスターズの試合を観に行ってみよう、となりますしね。また、子どもの招待も重視しています。子ども時代にベイスターズを身近に感じてもらいたいと思っています。いろいろな案はありますが、自社の目指す姿を踏まえて、戦略的に動くことが重要だと思います。