接客に適しているのは人かテクノロジーか
――ハンズラボでは、小売業向けのAlexaスキルスタートプランを提供しています。スマートスピーカーをはじめとした音声インターフェースが活躍するビジネスの現場には、どのようなイメージを持たれていますか。
これまでのインターフェースは、PCやスマホからキーボードでテキストを入力するというものでした。ですから音声インターフェースは、そのような作業がしづらい、体を動かす現場での活用を考えています。アイデアレベルですが、いろいろとイメージはありますね。取引先の介護施設では、ヘルパーさんが利用者から健康状態をヒアリングし、その内容をメモか記憶しておき、あらためてデスクワーク時に入力するという業務がある。これを音声で直接入力できるといいですよね。フィットネスジムでも、インストラクターの声に合わせて音楽のオンオフや音量の調整ができると、高揚感が高まり、楽しいスマートスピーカーの使い方になりそうです。
とはいえ、スマートスピーカーが世に浸透するためには、もう一つ踏み込んだ活用手段が欲しいですね。地図アプリのない世界には戻れないように、スマートスピーカーもそのくらいの存在にならないと使われません。もちろん今はスマホの黎明期と同じで、これからできることが増えていくところ。「OK, Google」や「Alexa!」というようなウェイクワードに反応するのではなく、「おなかすいたな」とつぶやいたら、「何かデリバリーしましょうか」と答えるくらいの性能になると、より身近になっていくでしょう。
――「AIが仕事を奪う」ではありませんが、従来の仕事や業務上のコミュニケーションが変わっていくのだなと想像できます。

小売りの現場で行われる仕事は、主に商品の発注・届いた商品の品出し・決済・接客の4つです。発注も決済も、いずれは自動化できるでしょうし、品出しも工夫次第でロボットが代替できそうです。接客ですが、東急ハンズだと、お客様からのお声かけで一番多いのは「○○はどこにありますか」です。この程度の問いかけならスマートスピーカーである程度対応できますが、細かい音声対応はお客様を理解したデータベースが必要。これは、人による接客でも同じことです。調べている・興味があるお客様ほど、ご自身が知らない情報を接客に求めています。つまり、お客様のことを知った上で答えなければ、人が接客をやる意味は薄れるのです。実際に大手ホームセンターは、接客の人数が少なくても商品が売れています。人には共感する能力がありますが、どこまで人が対応するのか、接客の定義を考えなくてはいけないと思います。
現場の「あったら使いたい」をテクノロジーで実現する
――ここまで、小売業全体のお話をうかがいました。最後にハンズラボとして、テクノロジーとどのように付き合っていかれるのか、教えてください。
僕としては、今すぐ難しいAI活用に挑戦しようと思ってはいないです。ハンズラボは、大きな企業でもスタートアップでもありません。目の前のビジネスを着実に実行しながら、テクノロジーを導入していこうと考えています。
先日、Postforという画像コミュニケーションサービスをリリースしました。売り場を作るときに、レイアウトの写真を撮影して資料を作成し、テキストで指示を添えてメールを送る……という業務フローがあるのですが、Postforは撮影した写真に手書きでコメントをいれ、そのまま共有ができます。売り場改善のPDCAプロセスを考えて開発したものです。
Postforは、AIの導入や難しい開発をしていません。指示をわかりやすく簡単に行いたいという現場のニーズから、情報量の多い画像に手書きでコメントをいれるという仕様が生まれました。そのうち、写真から自動的に売り場を判別したり、GPSを通して店舗や棚番号が出てきたりなどの機能が増えるかもしれません。基本のレイアウトを登録しておき、現場の写真と比較して、改善ポイントなどが自動で表示される機能も便利ですね。いきなり難しいことをやるのではなくて、「あったら使いたいな」ということから取り組んでみる。段階を踏んで、データを貯めながら難しいことへ挑戦していくのがいいのではないかなと思っています。