99%の売上が雑誌事業だった時代から強かったデジタルへの意識
――今回は出版社からマルチメディアカンパニーへ大きくシフトしている、ハースト婦人画報社の「360°戦略」について、お話をうかがっていきます。まず初めに、フロケさんのご経歴を簡単に教えてください。
フロケ:私はフランスから来日後、アパレルブランドやコスメブランドの会社でECビジネスの基本を学びました。その後、2004年に弊社に入社したのですが、その当時はまだ売上の99%が雑誌事業でした。そこからデジタル事業の立ち上げ・成長を率いてきまして、今年4月から代表取締役社長に就任しています。
――ハースト婦人画報社では、いつ頃から本格的にデジタルへの移行を考えられていたのでしょうか?
フロケ:出版社からデジタルの会社へ転換し始めたのは、2006年頃です。その頃には、今後デジタル中心のビジネスに変革していく必要性を強く認識していましたし、将来的にそうなっていくだろうと確信していました。
当時まずはじめに行ったのは、ブランド力の強い雑誌へのリソースの集中です。ブランド力が弱かった雑誌を休刊にし、『婦人画報』や『25ans(ヴァンサンカン)』、『ELLE(エル)』などのブランドが強い雑誌からデジタル化を進めていきました。そうしてデジタルに投資していく中で、2009年頃から「360°戦略」という大きなビジネス戦略の形が見えてきました。
――早い段階からデジタル化へ移行し始めていたのですね。では改めて、デジタルシフトにおける360°戦略について、詳しくお聞かせください。
フロケ:360°戦略は、雑誌やWebサイト、SNS、イベント、ECなど、あらゆるチャネルや手段を用いて、コンテンツを発信していくものです。このメディアプラットフォーム上における読者・広告主・生活者とのタッチポイントをデータとして収集することで、360°戦略の大きな目的である「収益の多様化」に向けて、マネタイズを実現しています。
出版社から「雑誌も発行するデジタル・パブリッシャー」へ
――「収益源の多様化」について、デジタルでのマネタイズで大きな割合を占めている領域は何ですか?
フロケ:ECですね。広告収入以外の新しい柱を模索する中で、2009年にECを立ち上げました。我々には、メディアを通して出会った読者のデータがありますので、その活用が大きな強みになっています。
現在は、収益の約3分の1がECという状態です。また、昨年実績でECを含めたデジタル事業の売上は、前年度比プラス20%と一気に拡大しています。今はまだ紙媒体の売上が大きいですが、約2年後には半々に、5年後にはデジタルの売上が逆転する見通しです。
我々は、ある時から「自分たちはもはや出版社ではない」と、自社の定義を変えました。「Webサイトも運営する雑誌出版社」でもなく、「雑誌も発行するデジタル・パブリッシャー」として、自身を捉えています。
――そんな中で、紙媒体にしかない強みは何だと思われますか?
フロケ:紙は、やはり一番高級感がある媒体だと思っています。ハイエンド、富裕層にとっては心地よい、ゆったりとした場所ですよね。インテリアやファッションといったジャンルとは特に相性が良く、これは広告コンテンツにも同じことがいえるでしょう。