あらゆるタッチポイントで読者データを収集、CRM強化へ
――次に、読者データの活用についてうかがいします。読者に対して、ハーストIDというものを設けられていると拝見したのですが、このハーストIDの仕組みを教えてください。
フロケ:今後、我々のビジネスはよりデジタルへ移行していきますが、そこで中心となるのが顧客データです。弊社は、メディア企業として引き続きメディアスペースを売るだけでなく、そこで得られたデータを活かして、サービスを提供していきたいと考えています。
ハーストIDは、各チャネルで接点のあるお客様のデータを一元化したものです。どのようなジャンルの記事を読んでいるのか、ページの滞在時間、ECでの購買履歴、オフラインイベントでの行動データなど、様々なデータをハーストIDで管理しています。
――ハーストIDのデータを、どのような取り組みに活かしているのですか?
フロケ:CRM強化のために活用しています。特に、ECにおいてCRMは必須です。一度ご購入いただいたお客様にリピーターになっていただくために、お客様に適したサービスや商品を提案しています。
弊社の強みは、独自のコンテンツを持っていることにあります。ハーストIDからわかるお客様の趣味嗜好にあわせて、編集者がセレクトした商品情報も紹介しています。これからトレンドになる商品の情報を先んじて受け取ることができるので、お客様にとっても嬉しい体験でしょう。
また、別の取り組みとして、BtoB向けサービスも行っています。たとえば、「ウィメンズヘルス」という媒体では、星野リゾートとコラボしたファン・コミュニティ「星野ウェルネスクラブ」の運営を行っています。「星野ウェルネスクラブ」では、ハーストIDのデータを基に、このコミュニティに親和性の高い読者を募り活動しています。コミュニティの会員は、星野リゾートでやってみたいプランを出し合い、それを実際に体験することができます。
デジタルシフトに対する社内の抵抗をクリアできた理由
――出版社からデジタル・パブリッシャーへの大きな転換に際し、社内で抵抗はなかったのでしょうか?
フロケ:ありました。事業転換に関する説明会などは何度も実施してきましたし、理解を得るのには時間がかかりました。
デジタルに対する社員の理解を深めるための取り組みとしては、毎月1回社外からスピーカーをお招きし勉強会を開催するなどのトレーニングを積極的に行っています。この勉強会は、2012年にスタートして以来、今も続けています。
――360°戦略が、全社的に進められているものであることがわかりますね。
フロケ:我々はグローバルで「ワンハースト」として媒体横断、組織横断を重視しています。一例として、ハースト本社が独自に開発したコンテンツマネジメントシステム「メディアOS」が挙げられます。日本でも「エル・オンライン」などから順次導入を図っているものです。
「メディアOS」により、海外で人気の記事を瞬時に把握し、各国のメディアで使用することができるほか、媒体を横断したグローバルな広告キャンペーンの提案も可能になっています。さらに今年ローンチした音声コンテンツ「婦人画報の京都の音」や「ウィメンズヘルスお疲れバスター」では、本社で蓄積されたノウハウを活かすことができています。
また以前、日本の組織は媒体ごとに縦割りでしたが、現在はメンズ メディア グループ、インターナショナル メディア グループ、ラグジュアリー メディアグループと3つのメディアグループに分ける体制へと変更しています。このグループ再編によって、複数メディアでの広告提案がスムーズに行えるようになりました。
