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MarkeZine Day(マーケジンデイ)は、マーケティング専門メディア「MarkeZine」が主催するイベントです。 「マーケティングの今を網羅する」をコンセプトに、拡張・複雑化している広告・マーケティング領域の最新情報を効率的にキャッチできる場所として企画・運営しています。

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定期誌『MarkeZine』特集

トレンドは「クリエイティブAI」 広告は瞬時に生成し配信する時代へ

バナーと商品説明文の自動生成を目指す

――興味深いですね。これまで、AIの活用には一定のデータ量は必須だと言われていましたが、それが覆されるようになる。

 そうですね。基になるデータが全然ない場合でも、別途トランスファーラーニングを活用していくという事例も増えてきていて、簡単に言うとおもちゃの車で収集したデータを実際の車に転用する、みたいなことも可能になっています。

 これとGANを組み合わせると、人の情報を扱う上で避けて通れない個人情報保護の問題をクリアする糸口も見えてきます。プライバシーに触れず、ユーザーデータに似たデータをGANによって作り出せる可能性があるわけですから。ただ、それは逆に、データホルダーの強みが減じることにもつながる。我々にもそれは言えるので、考えどころだとは思います。

――実際、GANが可能にしているクリエイティブAIの広告マーケティング領域の実用化は、どのくらい進んでいるのでしょうか?

 既にアリババが2017年、一日に4億枚の広告バナーを自動生成・配信したと発表しています。これまではクリエイティブは用意した上で、配信を自動最適化してくれていたのが、パーソナライズしたクリエイティブの生成から配信までをリアルタイムでやったわけですね。

 もちろん楽天でもこの研究開発に注力していて、楽天市場の商品の広告バナーと商品説明文の自動生成に取り組んでいます。実用化には、実際どのくらいコンバージョンするのか、どのようにその機能を店舗様や広告主に提供していくかといったビジネス判断も入ってくるのでまだ見通せていません。ただ、研究の中では様々な応用も見えつつあります。

 実はGANではありませんが、2012年に半教師学習という手法を使って学習用のデータが少ないところでもAIが商品データの「間違い」を識別する施策を実践したんですね。1億9,000万点の商品に対して商品説明文やカテゴリーが合っているかをチェックして、AIによって自動的に直したところ、店舗によっては売上が20%も改善しました。クリエイティブAIの発展によって、データの間違いを正したりする応用も進むので、そうした効果も期待できますね。

ユーザーへの最適な情報提供に挑戦

――では、そうした最新事情を押さえることを含めて、企業のマーケターや広告会社がAI活用に向き合う上で必要なこととはなんでしょうか?

 先ほど、ディープラーニングが「階層が深いほど精度が高い、でも数学的に説明できない部分がある」とお話ししましたが、そうした「曖昧さ」をどう受け止めるかは、ひとつ大きなテーマになると思います。

 ターゲティングにしても、たとえば火災保険なら、以前はAIが「ガーデニング用品の購入者」を抽出してきたらそれは「庭があるかも→戸建て→火災保険に関心」というロジックだなと、人間がストーリーを説明できました。これはシンプルな機械学習によるものですが、ディープラーニングがベースだと、フィーチャーの数を膨大にできてしまうのでもう説明できません。

 楽天でも5月に「RakutenAIris(アイリス)」というターゲティングソリューションをリリースしましたが、人間の無意識領域まで含めて何層も解析できてしまうので、何がどうなってこのセグメントなのかはわからないレベルにまで到達できます。でも、精度は確実に上がるんです。

 従来のストーリーが説明できるものと違って、ストーリーで説明ができないものをどう受け止めるのか、自分たちのビジネスにどう位置づけるのかは、企業によってスタンスが分かれると思っています。ただ、手を出さなければ競合に負ける可能性がありますから、障壁があるなら議論する必要があるかもしれません。

――最後に、広告マーケティング領域での今後の展望をうかがえますか?

 冒頭で申し上げたように、AIの研究は今に始まったことではありません。私は、普及のトリガーは技術の中身ではなく、人間の世代交替にあると考えています。オートマ車だって、「やっぱり車はマニュアルだ」という人から「オートマで十分」という人が社会の中心世代になったから、普及した。それと同じで、PCではなくスマホ中心の層へと世代がもう少し交替すると、ITに対する世界観が変わって、音声認識や機械翻訳といった支援系のAIが一気に普及すると思います。

 既にユーザー側は、一人ひとりが無数の選択肢を手に入れています。先日、たまたまECで衣紋掛けを買ったんですが、Webサイトには日本語表記で日本円の表示、でも販売元はヨーロッパの小さな会社で、商品は送料無料で香港の配送センターから3日後に届きました。おそらくニーズの予測を立てて各拠点に商品を配置しておき、サイトもユーザーに合わせて自動翻訳して最適に配送しているのでしょう。このユーザーエクスペリエンスは、日本のECで買うのと何も違いがない。ユーザーは気づかぬうちにグローバルのサービスを使い、まったくストレスなく自分好みの情報にアクセスしているんです。

 一方で、そんなユーザーに広告技術はまだ追いついていないと思います。技術的には可能なのに、まだ完全にOne to Oneの情報提供や広告配信が実現できていません。確かに100万通り、1,000万通りの配信は大変に違いないですが、一人ひとりが解き放たれたエンドユーザーに向けた「本当に適切な情報提供」に挑戦できるといいですね。それがもしかしたら、クリエイティブAIによって実現するのではと、大きな期待と可能性を感じています。

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この記事の著者

高島 知子(タカシマ トモコ)

 フリー編集者・ライター。主にビジネス系で活動(仕事をWEBにまとめています、詳細はこちらから)。関心領域は企業のコミュニケーション活動、個人の働き方など。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

道上 飛翔(編集部)(ミチカミ ツバサ)

1991年生まれ。法政大学社会学部を2014年に卒業後、インターネット専業広告代理店へ入社し営業業務を行う。アドテクノロジーへの知的好奇心から読んでいたMarkeZineをきっかけに、2015年4月に翔泳社へ入社。7月よりMarkeZine編集部にジョインし、下っ端編集者として日々修業した結果、2020年4月より副...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2018/10/25 13:30 https://markezine.jp/article/detail/29443

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