タイムリーな通知で解約リスクを削減
Oisixでは、同社おすすめの食材構成が最初からユーザーの注文カゴに入っており、そこからユーザーが自由に入れ替えを行う仕組みを採っている。次に届ける食材については、お届け予定日の1週間〜10日前にユーザーに通知するので、注文変更の締め切りまでの間は何度でも品物の出し入れをすることが可能だ。しかし、うっかり注文を変更するのを忘れてしまうというユーザーも多く、その場合「不要な食材が入っていた」という失望感のため、解約率が3倍に増えることもあったという。
これを防ぐため、以前はメールを使って注文未変更のリマインドを通知していたが、Marketing Cloudを導入して注文期間の2日前・締め切り日前日・締め切り時間の1〜2時間前までと、きめ細かくプッシュ通知を行った。その結果、注文未変更者を63%削減できたという。ポイントは、利用するユーザーごとにメールだけでなくLINEやアプリ、SMSなど4つのコミュニケーションチャネルを併用してリマインドを実施したことだ。さらに同社は、Marketing Cloudに蓄積されたログを分析し、メッセージに対するユーザーの反応を見て、最適なタイミングとチャネルを選び、注文変更を促すことで大きな効果を生み出した。
「LINEなども活用しているので、通勤中の電車の中からでも、スマートフォンで注文内容の確認・変更・注文を行えます。こうしたユーザーに最適なタイミング・チャネルによるコミュニケーションを実施したことで、注文未変更者が減り、解約リスクを削減することに成功しました」(普川氏)
問い合わせから配送まで、すべてのジャーニーを快適に
同社は今後、Marketing Cloudを活用して挑戦したいことが大きく3つあるという。第一に、送信したメッセージごとにPDCAを回し、さらに良いコミュニケーションを図っていくこと。第二に、注文未変更や会員化のフェーズだけでなく、配送や問い合わせなども含め、Oisix体験に関わるすべてのジャーニーにまで活用範囲を広げていくことだ。
たとえばコールセンターへ来たユーザーからの問い合わせや、アウトバウンドでコールする場合、Marketing Cloudに蓄積したコミュニケーションログを確認して、その人に合ったコミュニケーションを実現することで、よりOisixの体験を有意義なものにする。「Service CloudとMarketing Cloudはシステム的に連携済みなので、あとはこの仕組みを生かしながら、より良いジャーニー作りに全社横断で取り組んでいくつもりです」と高橋氏は意欲を見せる。将来的には、コミュニケーションシナリオに応じた顧客ごとのLTVを分析し、良い顧客体験の創出を事業成果につなげていく構えだ。
そして最後は、Oisixブランドで蓄積した成功ノウハウや知見を、大地を守る会やらでぃっしゅぼーやなど別ブランドに広げていくこと。ブランドごとに、顧客層も抱えているニーズも異なるが、「同じビジネスモデルで、より良いカスタマージャーニーを実現したいという目的も同じ。根幹となるノウハウは他ブランドにも展開できると考えています」と普川氏はいう。ブランドの特性により、コミュニケーションシナリオの細かい部分は異なるかもしれないが、そこはMarketing Cloudの柔軟なシナリオ設定でカバーできる。
自然派食品宅配業界の最大手として、オイシックス・ラ・大地のカスタマージャーニーはさらなる進化を目指していく。
カスタマージャーニー研究プロジェクトチームのコメント
加藤:3つのブランドを抱える同社にとって、マーケティング展開の柔軟性と拡張性が重要な鍵となります。全社横断で活用できるマーケティング機能をマーケティングプラットフォームとして位置付け、マーケティングのバリューチェーンを構築しているところが最大のポイントとなるインタビューでした。シナリオ設計、コンテンツ制作・配信、配信確認、成果分析を部署間でリレーしていく体制とクラウドの活用により、週に何十本ものシナリオ運用を可能にしています。カスタマージャーニーと向き合うことが、自社にとって最適な体制を生み出すヒントを与えてくれているのでしょう。
押久保:一人に対して同じような内容の通知が何通も届いてしまう。ユーザー基盤が広がれば広がるほど、こういった課題に直面するケースは多く、耳が痛い担当者の方も多いのではないでしょうか。3社の経営統合という新たな局面を迎えた中で、共通化できるバックエンドは共通化して効率化を図りながら、それぞれのブランドで価値創造の実現に挑む同社の取り組みに今後も注目です。
カスタマージャーニー研究プロジェクトとは?
「カスタマージャーニー」、顧客の一連のブランド体験を旅に例えた言葉。デジタルやリアルの接点が交差し、顧客の行動が複雑化する中、「真の顧客視点」に立って、マーケティングを実践する重要性が増してきました。
カスタマージャーニーに基づいたマーケティングの必要性は、その認知が進む一方で、「きちんと“顧客視点に基づいたシナリオ”を作成し、運用できている企業はまだまだ少ない」多くのマーケターに意見を聞くと、そのように認識されています。
今回、押久保率いるMarkeZine編集部とセールスフォース・ドットコム マーケティングディレクターとして、各企業とジャーニーを研究してきた加藤希尊氏を中心に、共同でカスタマージャーニー研究プロジェクトを立ち上げました。本プロジェクトでは、「顧客視点のマーケティング」における成功例を取り上げ、様々なアプローチ方法をご紹介していきます。その他の成功例はこちら。