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第106号(2024年10月号)
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カスタマージャーニー研究プロジェクト(AD)

“タイムリーな通知”で解約リスクを大幅削減!オイシックス・ラ・大地が描く、至福の「食」ジャーニー

 創業18年、有機野菜を中心とする食品ネットスーパー「Oisix」を運営する中、「大地を守る会」「らでぃっしゅぼーや」など自然派食品と経営統合を進めているオイシックス・ラ・大地。同社は3ブランドのユーザーに向け、より良いカスタマージャーニーの提供を目指してSalesforce Marketing Cloud、Salesforce Service Cloudを導入。ユーザーに寄り添ったコミュニケーション設計で、解約につながる注文未変更の割合を60%削減した、同社の取り組みを取材した。

「食」に関わる社会問題の解決を目指して

 有機野菜を中心とするネット食品スーパー「Oisix」などを運営するオイシックス・ラ・大地。2000年に設立されたオイシックス株式会社を前身とし、2017年には40年以上にわたって有機野菜の通販業を手がけてきた「大地を守る会」との合併・経営統合を実現。2018年2月には無添加食品や環境に配慮した日用品の宅配業を手がける「らでぃっしゅぼーや」も加え、現在はOisix・大地を守る会・らでぃっしゅぼーやの3つのブランドを主軸に事業を展開している。

 同社は、「より多くの人がよい食生活を楽しめるよう、食に関する社会課題をビジネスの手法で解決する」ことを理念として掲げている。一口に「食」とはいっても、ユーザーの課題・ニーズは様々だ。たとえばOisixであれば、日々忙しさを増す現代社会において「栄養豊富なおいしい食材を時短で調理したい」というユーザーが多く、大地を守る会では「健康志向」、らでぃっしゅぼーやでは「環境に配慮した、持続可能な社会づくりに貢献したい」というユーザーが多い。

 「3ブランドでそれぞれ食に対する社会的課題を定義していますが、基本的なビジネスモデルは同じです。そこで経営統合に際し、共通化できるバックエンドは共通化して効率化を図りながら、それぞれのブランドで価値創造を実現するプラットフォーム構想を描きました。基盤となるのは、製品の流通を管理する『フルフィルメント・プラットフォーム』、そしてお客様との円滑なコミュニケーションを実現する『マーケティング・プラットフォーム』の2つ。今回このマーケティング・プラットフォームのひとつの形として、Salesforce Marketing Cloud(以下、Marketing Cloud)の導入を決め、まずはOisixブランドで運用を開始しました」(普川氏)

オイシックス・ラ・大地株式会社 CX室 データ & プラットフォームセクション 普川 泰如氏
オイシックス・ラ・大地株式会社 CX室 データ & プラットフォームセクション 普川 泰如氏

シナリオを柔軟に組み替えるため、既存のMAツールからMarketing Cloudへ

 実は同社はMarketing Cloud導入前に、他社のマーケティングオートメーションツール(以下、MAツール)を使っていた。だがカスタマージャーニーに沿ったきめ細かなコミュニケーションを実現するには、「柔軟性の点でやや問題がありました」(普川氏)という。

 当時はユーザーとのコミュニケーションチャネルとして、メール、LINE、アプリ、SMSの4つのチャネルを使っていた。一人のユーザーにつき複数のチャネルでつながっていれば、それだけ密なコミュニケーションがしやすく、ユーザー側も重要なお知らせや必要な情報を見逃すリスクが少なくなる。

 その一方、複数のチャネルによる課題や弊害も生じていた。コミュニケーションシナリオが多様になったこともその1つだ。「どのチャネルでどんなコミュニケーションを行うのか」「反応がなかった場合に、どのチャネルでどんなメッセージを送るのか」など、考えるべきシナリオは無数にあり、ユーザーニーズや状況によってシナリオを柔軟に組み替えなくてはならない。以前のMAツールでは、こうした柔軟な対応がしにくかったという。

「1日に同じ内容が複数チャネルで届く」嫌悪感を払拭

 チャネルごとに運用がバラバラだったことも課題だった。オイシックス・ラ・大地 CX室 CX企画セクション 高橋勇樹氏は、「以前はチャネルを統合して運用していなかったため、一人の方に同じ内容の通知が何通も届くことがあり、それが原因でお客様がOisixに嫌悪感を抱くことも多々ありました」と説明する。

オイシックス・ラ・大地株式会社 CX室 企画セクション 高橋 勇樹氏
オイシックス・ラ・大地株式会社 CX室 企画セクション 高橋 勇樹氏

 こうした背景もあり、大地を守る会などとの経営統合をきっかけにプラットフォーム刷新を決意。同社で設計したカスタマージャーニーに沿ってプラットフォームを選定したところ、「柔軟性やチャネル対応の多さなどから、セールスフォースのソリューションが最適」となり、2017年10月にMarketing Cloud、Salesforce Service Cloud(以下、Service Cloud)の導入を決め、同年11月から導入作業を開始した。

 導入に際しては、あらかじめ運用体制を構想しながら進めていった。「週に何十本もシナリオが走ることを考えると、一人ですべての業務を進めることは難しい」という観点から、コミュニケーションの企画と具体的なシナリオ設定はEC事業部、チャネルごとのコンテンツ制作や配信設定は業務部、無事メッセージが配信されたか確認する役目はシステム部、そして成果分析はEC事業部と役割を定め、カスタマージャーニーに沿って適切なタイミングで必要なコミュニケーションを行う体制を構築したという。これと合わせ、Marketing CloudとService Cloudの連携も進めていった。

食に関わるカスタマージャーニーを再設計し、コミュニケーション戦略を立案

 そんなOisixのカスタマージャーニーとはどのようなものか。Oisixは、ユーザーが調理に関する手間を省きながらも、豊かな食生活を送れることを「プレミアム時短」という価値と捉え、20分以内に2品作れるレシピ付き献立ミールキットである「KitOisix」を中心とした1週間分の食材を定期宅配している。

 最大の特徴は、定期便でありながら、好みに合わせて内容物や量を自由に変更できる柔軟性にある。この理由について、高橋氏は「定期便は、Oisixが自信をもってお勧めする旬の食材を組み合わせて提案しています。ですがお客様にとってみると、届いた食材に不要なものがあれば、それがネガティブ体験になってしまいます。サービスを継続してもらうには、こうしたネガティブ体験につながる要因を取り除き、良い体験を提案するコミュニケーションが必要です」と説明する。そこでユーザー一人ひとりの「食」に関わる行動=カスタマージャーニーを理解し、その行動に沿った適切なコミュニケーションを進めることが重要だという。

 食に関わる行動とは、たとえば「今日の献立は何がいいだろう」と考えることや、食材を購入する行為、そして調理し、食べるという行為がある。

食に関わるカスタマージャーニー
食に関わるカスタマージャーニー

 Oisixのサービス開始当初、同社は購買フェーズを重視し、販促中心のコミュニケーションを取っていた。企業目線で“売りたい商品”を押すメッセージは、必ずしもユーザーのメリットにつながらないだけでなく、先述したようなネガティブ体験を招く可能性もある。そこで同社は、提案する食材に合わせたメニューの提案や具体的なレシピなどを適切なタイミングとチャネルでプッシュ配信するほか、Oisix体験を向上させるため「注文未変更」をできるだけ減らすコミュニケーションに取り組んだ。

タイムリーな通知で解約リスクを削減

 Oisixでは、同社おすすめの食材構成が最初からユーザーの注文カゴに入っており、そこからユーザーが自由に入れ替えを行う仕組みを採っている。次に届ける食材については、お届け予定日の1週間〜10日前にユーザーに通知するので、注文変更の締め切りまでの間は何度でも品物の出し入れをすることが可能だ。しかし、うっかり注文を変更するのを忘れてしまうというユーザーも多く、その場合「不要な食材が入っていた」という失望感のため、解約率が3倍に増えることもあったという。

 これを防ぐため、以前はメールを使って注文未変更のリマインドを通知していたが、Marketing Cloudを導入して注文期間の2日前・締め切り日前日・締め切り時間の1〜2時間前までと、きめ細かくプッシュ通知を行った。その結果、注文未変更者を63%削減できたという。ポイントは、利用するユーザーごとにメールだけでなくLINEやアプリ、SMSなど4つのコミュニケーションチャネルを併用してリマインドを実施したことだ。さらに同社は、Marketing Cloudに蓄積されたログを分析し、メッセージに対するユーザーの反応を見て、最適なタイミングとチャネルを選び、注文変更を促すことで大きな効果を生み出した。

LINEによるプッシュ通知
LINEによるプッシュ通知

 「LINEなども活用しているので、通勤中の電車の中からでも、スマートフォンで注文内容の確認・変更・注文を行えます。こうしたユーザーに最適なタイミング・チャネルによるコミュニケーションを実施したことで、注文未変更者が減り、解約リスクを削減することに成功しました」(普川氏)

問い合わせから配送まで、すべてのジャーニーを快適に

 同社は今後、Marketing Cloudを活用して挑戦したいことが大きく3つあるという。第一に、送信したメッセージごとにPDCAを回し、さらに良いコミュニケーションを図っていくこと。第二に、注文未変更や会員化のフェーズだけでなく、配送や問い合わせなども含め、Oisix体験に関わるすべてのジャーニーにまで活用範囲を広げていくことだ。

 たとえばコールセンターへ来たユーザーからの問い合わせや、アウトバウンドでコールする場合、Marketing Cloudに蓄積したコミュニケーションログを確認して、その人に合ったコミュニケーションを実現することで、よりOisixの体験を有意義なものにする。「Service CloudとMarketing Cloudはシステム的に連携済みなので、あとはこの仕組みを生かしながら、より良いジャーニー作りに全社横断で取り組んでいくつもりです」と高橋氏は意欲を見せる。将来的には、コミュニケーションシナリオに応じた顧客ごとのLTVを分析し、良い顧客体験の創出を事業成果につなげていく構えだ。

 そして最後は、Oisixブランドで蓄積した成功ノウハウや知見を、大地を守る会やらでぃっしゅぼーやなど別ブランドに広げていくこと。ブランドごとに、顧客層も抱えているニーズも異なるが、「同じビジネスモデルで、より良いカスタマージャーニーを実現したいという目的も同じ。根幹となるノウハウは他ブランドにも展開できると考えています」と普川氏はいう。ブランドの特性により、コミュニケーションシナリオの細かい部分は異なるかもしれないが、そこはMarketing Cloudの柔軟なシナリオ設定でカバーできる。

 自然派食品宅配業界の最大手として、オイシックス・ラ・大地のカスタマージャーニーはさらなる進化を目指していく。

カスタマージャーニー研究プロジェクトチームのコメント

加藤:3つのブランドを抱える同社にとって、マーケティング展開の柔軟性と拡張性が重要な鍵となります。全社横断で活用できるマーケティング機能をマーケティングプラットフォームとして位置付け、マーケティングのバリューチェーンを構築しているところが最大のポイントとなるインタビューでした。シナリオ設計、コンテンツ制作・配信、配信確認、成果分析を部署間でリレーしていく体制とクラウドの活用により、週に何十本ものシナリオ運用を可能にしています。カスタマージャーニーと向き合うことが、自社にとって最適な体制を生み出すヒントを与えてくれているのでしょう。

押久保:一人に対して同じような内容の通知が何通も届いてしまう。ユーザー基盤が広がれば広がるほど、こういった課題に直面するケースは多く、耳が痛い担当者の方も多いのではないでしょうか。3社の経営統合という新たな局面を迎えた中で、共通化できるバックエンドは共通化して効率化を図りながら、それぞれのブランドで価値創造の実現に挑む同社の取り組みに今後も注目です。

カスタマージャーニー研究プロジェクトとは?
「カスタマージャーニー」、顧客の一連のブランド体験を旅に例えた言葉。デジタルやリアルの接点が交差し、顧客の行動が複雑化する中、「真の顧客視点」に立って、マーケティングを実践する重要性が増してきました。
カスタマージャーニーに基づいたマーケティングの必要性は、その認知が進む一方で、「きちんと“顧客視点に基づいたシナリオ”を作成し、運用できている企業はまだまだ少ない」多くのマーケターに意見を聞くと、そのように認識されています。
今回、押久保率いるMarkeZine編集部とセールスフォース・ドットコム マーケティングディレクターとして、各企業とジャーニーを研究してきた加藤希尊氏を中心に、共同でカスタマージャーニー研究プロジェクトを立ち上げました。本プロジェクトでは、「顧客視点のマーケティング」における成功例を取り上げ、様々なアプローチ方法をご紹介していきます。その他の成功例はこちら

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この記事の著者

加藤 希尊(カトウ ミコト)

チーターデジタル株式会社 副社長 兼 CMO
広告代理店と広告主、BtoCとBtoB両方の経験を持つプロフェッショナルマーケター。WPPグループに12年勤務し、化粧品やITなど、14業種において100以上のマーケティング施策を展開。2012年よりセールスフォース・ドットコムに参画し、日本におけるマーケティングオートメ...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

岩崎 史絵(イワサキ シエ)

リックテレコム、アットマーク・アイティ(現ITmedia)の編集記者を経てフリーに。最近はマーケティング分野の取材・執筆のほか、一般企業のオウンドメディア企画・編集やPR/広報支援なども行っている。

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【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

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MarkeZine(マーケジン)
2018/11/05 10:00 https://markezine.jp/article/detail/29460