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MarkeZine Day(マーケジンデイ)は、マーケティング専門メディア「MarkeZine」が主催するイベントです。 「マーケティングの今を網羅する」をコンセプトに、拡張・複雑化している広告・マーケティング領域の最新情報を効率的にキャッチできる場所として企画・運営しています。

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定期誌『MarkeZine』特集

企業間データ連携でビジネスを創出 FinTechを機に広がるAPIエコノミー

改正銀行法でFinTech促進

――では、金融業界でAPIが広がった経緯をうかがえますか?

 日本では、個人資産管理アプリの浸透がきっかけでした。最初に銀行口座などを登録しておくと、以降はそれらをアプリ上で一括管理できますよね。現在は照会のAPIを介してアプリが個人情報を持つことなく情報を呼び出すところが増えていますが、最初は銀行がAPIを開いていなかったので、インターネットバンキングのユーザーIDとパスワードをユーザーがアプリに登録し、アプリがログインを代行していました。

 ログイン情報はユーザーと銀行のみが知り得る重要な個人情報ですから、アプリ側がセキュリティ対策をしていても、本来この状態は好ましくはありません。またこの方法だとアクセスが多いときは銀行のサーバーに負荷がかかり、銀行がサイト設計を変更したらアプリのプログラムも急いで書き換える必要もあって、アプリ事業者側からもAPI開放の声が高まっていったんです。

 そこでインターネットバンキングのみでサービスをしているネットバンクが真っ先にAPIの公開を検討し、住信SBIネット銀行様が2016年に日本の銀行で初めてWeb APIを公開しました。実際それまではセキュリティを気にしてFinTechアプリを使うのを躊躇していた人もいて、住信SBIネット銀行様がTwitterで「API公開なう」とつぶやいたら反響が大きく、検索上位にきたと聞きました。他の銀行も追随する中、グローバルの流れも受けて、金融庁主導で2017年6月に「銀行法等の一部を改正する法律(以下、改正銀行法)」が公布されました。金融庁が銀行へ「APIを開放し、健全なFinTech活用に努めましょう」と促したように思えます。

――普通は規制する側の省庁が、開放を促進したんですね。

 そうなんです。ただ、悪意のある事業者がAPIを利用しては困るので、所定の審査を通過した事業者のみが電子決済等代行業者として登録され、いわゆるFinTech企業として銀行とAPI連携できるというしくみになっています。まだAPI公開していない銀行もありますが、金融業界は大きな方向性が定まったことで、今は他業界でのAPI公開の動きが加速しつつある段階です。

リーマンショックを機に銀行のAPI公開が加速

――デジタルマーケティングの業界にいると、FacebookやTwitterのAPIという言葉はよく聞くので、もっと広がっているようなイメージを持っていました。

 そうですね、GoogleやAmazonがWeb APIを公開したのは2002年です。デジタル企業はビジネス自体がデジタルネイティブなので、APIの接続口を作るのは技術的にも文化的にも自然な流れで、難しくないんです。一方で伝統的な企業は、既存の様々なコンピューターシステムが多数稼働しており、従来からの業務システムも山のようにあります。当社の顧客は、どちらかというとこうした企業が中心ですね。ただ、皆さん「社内に眠るデータに付加価値を見出せば新たなビジネスになる」という可能性は感じ始めています。

――グローバルでは、API公開の拡大にはどういった背景があるのでしょうか。スマホの普及なども関係がありますか?

 ありますね。私もFinTechとAPIの関連性を捉えようと思って、年表を作成したところ、グローバルでもFinTechの成長とAPIが認識されていったのは一致していました。加えて、ご指摘のようにそれはスマホの普及とも重なります。

 契機になったのは2008年のリーマンショックです。米国では銀行口座を持てないUnbankedや口座を持っていても金融サービスを十分利用できないUnder bankedという人々が移民を中心に増加し、送金や資金の借入に困っていました。

 他国から出稼ぎにきていて家族に仕送りをしたくても銀行の送金サービスが使えないわけです。またリーマンショック後には銀行ローンの審査はより厳しくなり、資金を銀行から借りることができない人々が増加しました。このような中、スマホを持っていれば送金できるアプリやソーシャルレンディングのように銀行を介さずに貸し手が直接借り手に資金を貸し付けるようなアプリが生まれ、若い世代を中心に急速に支持されるようになりました。

 これらFinTechアプリはとても便利で手数料も小さかったので、多くの人々に広がっていきました。それに危機感を持ったシティ銀行が2014年にAPIを公開し、IBMCloudを利用して大々的な世界規模のハッカソンを開催しました。メガバンクが参入したことで金融系のAPI公開が加速し、FinTechアプリも増えていきました。

倉庫会社のAPI公開で実現した洋服レンタルサービス

――ちなみに、シティ銀行でAPI公開を推進したのはどういった部署なんでしょうか?

 いいご質問ですね。システムを作る話は伝統的にシステム部がベンダーとやり取りしますが、APIはマーケティングやLOB(業務部門)が主導することが多く、このシティ銀行でもマーケティングのリーダーがAPI公開を推進しました。APIは外部の開発者が使うものなので、ユーザーエクスペリエンスがわかっていないと本当に彼らに役立つAPIを設計できないんです。

――それは興味深いですね。では、金融以外にも広がっている日本のAPIエコノミーの事例をうかがえますか?

 企業間の新規ビジネス創出で好例なのは、定額制の洋服レンタルサービスですね。私も、セミナーなどでこの事例を紹介したくて自分でも使ってみなければと申し込んだら(笑)、専任のスタイリストさんが私が普段着ない服をあえて選んでくれたりして、新しい体験でしたし好感を持ちました。運営には旬の洋服をたくさん管理しないといけないし、ユーザーがそれらを常に検索できるようにしておく必要がありますが、洋服の保管と出庫・入庫には、保管と物流のプロである有名倉庫会社のAPIが使われていて、洋服レンタルサービスのアプリから直接情報を呼び出して閲覧や出庫のオーダーができます。なので、洋服レンタルサービスの会社は自分たちで管理や物流を手がけずに、服の提案やアドバイスという本業に専念できる。まさに得意分野で協業し合う、シェアリングエコノミーをAPI連携で実現していると思いました。倉庫会社がAPIを公開してくれなかったら、このレンタルサービスを開始するためには非常に多くの準備が必要だったことでしょう。

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APIとRPAで業務効率化が進む

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この記事の著者

高島 知子(タカシマ トモコ)

 フリー編集者・ライター。主にビジネス系で活動(仕事をWEBにまとめています、詳細はこちらから)。関心領域は企業のコミュニケーション活動、個人の働き方など。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

安成 蓉子(編集部)(ヤスナリ ヨウコ)

MarkeZine編集部 編集長
1985年山口県生まれ。慶應義塾大学文学部卒業。専門商社で営業を経験し、2012年株式会社翔泳社に入社。マーケティング専門メディア『MarkeZine』の編集・企画・運営に携わる。2016年、雑誌『MarkeZine』を創刊し、サブスクリプション事業を開始。編集業務と並行して、デジタル時代に適した出版社・ウェブメディアの新ビジネスモデル構築に取り組んでいる。2019年4月、編集長就任。プライベートでは2児の母。

★編集...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2018/11/26 13:45 https://markezine.jp/article/detail/29711

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