「買おう」と決断するのに効いている情報は何か
西口::現場こそ、最たる顧客接点ですからね。事前の情報も重要ですが、現場で得られることに優るものはないというか。
長瀬:まさに、そうですね。特にコスメビジネスが難しいのは、女性は本当に移り気なので(笑)。いろいろな調査を経てカスタマージャーニーを立てて、この人はこういうパターンで買う、@cosmeのランキングもチェックしてもうここまで進んでいる、といったって店頭でパッと新商品に出合った瞬間に気が変わったりしますから。はい無駄です~、みたいな。
西口::わかります……(笑)。僕もロクシタン時代、痛感していました。
長瀬:むしろ、現場で誰がどう対応してどのタイミングで何を話したか、照明はどんな感じだったか、空調は、といった情報を僕は知りたいと思っていました。ロレアルではそれらは意識改革の次のステップだと考えていましたが、そうした情報のほうが「買おうかな」という気持ちへのインパクトが高いはずなんですよね。
西口::それ、すごく共感します。さらに、お客さんの反応を数値化して各スタッフの成績に反映できると、一層モチベーションも上がりますよね。SHOWROOMがやっている、投げ銭システムのようなのがあると。
長瀬:そういうのはいいですよね。以前、観客の反応を笑顔の多さで測定するリアル版ヒートマップみたいなシステムが、カンヌで賞を獲っていました(※)。店舗だと接客で現金はとれないけど、各スタッフにポイントが還元されるとか、何らかのリワードがあると接客もよくなるし、販売のモデルもカスタマーファーストにがらっと変わると思います。
※2013年にスペイン・バルセロナのお笑い劇場「Teatreneu」が導入した、観客ごとにiPadで笑顔を判定して笑った分だけ後から課金する仕組み「Pay-Per-Laugh」。翌年のカンヌライオンズのモバイル部門で金賞を受賞した。
データドリブン体質への転換としてのABテスト

西口::徹底した現場主義の姿勢が印象的です。長瀬さんがそういう考え方をするようになったのは、何かきっかけがあったんでしょうか?
長瀬:そうですね、元々僕自身が顧客として、気づいた点はすぐ言うタイプだっていうのはありますね。たとえば店舗で買い物したり食事をしたりして気づいた点があったら、こうしたほうがいいんじゃない、とすぐ言う。言って改善されたら速いし、ハッピーだし。ビジネス上で心底理解したのは、ロレアルの前に勤めていたFacebookでの経験が大きいですね。
西口::Facebookですか? プラットフォーマーって顧客中心主義というイメージがあまりないんですが。
長瀬:それが、実はものすごいユーザードリブンなんです。モバイルやPCを通して、エンジニアが常にユーザーの動きを見ていて、何かバグがあったら即、直す。エンジニアが現場に張り付いているような状態でした。だから僕がバグを知るころには既に直っていて、リアルタイムで改善されていくのって最高だなと思っていました。
西口::デジタル企業だと、たとえばABテスト主義みたいな、とにかくデータが指し示すほうにのみ舵を切ってその理由は見ない、みたいな風潮もあるのではと思いますが。
長瀬:Facebookでは、そういうテストすらやっていなかったですね。バグ自体がけっこうなアイデアリソースなので、その不便に対応して、ちょっと違ったらすぐまた変える、という。おっしゃるようにテスト&ラーンは理由を知ることこそ重要なのに、瞬発的に反応するだけになるという功罪はあると思います。ただ、ロレアルではそれが逆に必要でした。データドリブン体質への転換に有益だと思ったので、顧客と直接話して情報を得て活かせるようになるまでのブリッジとして、「一回小さくテストして確かめたらいいよ」とプッシュしていましたね。
後編では、長瀬さんのキャリア変遷や、CMOやCDOになるために必要な経験、さらにLDHで今後目指すことについてうかがいます。お見逃しなく!