CDOになるにはPLを持つ経験が不可欠
西口:あ、僕もP&Gで同じ経験をしていました(笑)。PLを持つと、たとえそれが小規模なブランドでも、起点から顧客に届くまでのビジネスモデルが全部理解できる。
長瀬:ですよね。僕もそれこそ茶葉を摘んでいる人やその家族構成(コスト)から、工場でのライン数や機械の使用度合い、コンタミ(※コンタミネーション:異物混入)のリスクとその除外コスト、オークションを経て飛行機か船で輸送するそのコスト、パテント取得、商品企画、キャンペーンに落とし込んでタレントをアサインして音楽を手配して、発売後は棚の動向を見て……という、全部を計算して把握していました。むしろ、デジタルなんて数年すれば要らなくなる、つまり当たり前になるので、こっちの経験のほうが重要です。
西口:ビジネスの理解という点では、日本企業の定番のジョブローテーションがあると思われるかもしれないけど、実際あれは趣味が増えたみたいなものですよね。いろいろできるようになりましょう、というだけで、ただの点でしかない。PLをもってこそ、分業で抜け落ちてしまっている間がつながると思います。
長瀬:同感です。だから今デジタル領域にいて、将来CDOやCMOを目指すなら、PLを持つ経験ができる部署への異動か、社内で難しければ転職か。これは会社の側も悪いんですが、ECを強化したいからEC経験者をハイアリングするのは、ジョブオファリングであってキャリアオファリングではないんですよ。本当はキャリアオファーしないといけない。
PLの点でも、ロレアルは、おすすめですよ。EC/Web担当から入っても営業もプロダクトマーケティングもできるようなジョブローテーションが可能ですし、僕がいたのでいずれはCDOになるという道筋は見えるので(笑)。

日本企業が生き残るにはトップの意識が鍵を握る
西口:では、マーケティングを進化させ、経営を進化させるには、どうしたらいいと思いますか?
長瀬:そうですね、先ほど挙がりましたが、やっぱり社長から何とかしたほうがいいのかもしれないです。ロレアルでもリバースメンタリング(※部下から上司に対するメンター制度)を実施していましたし、CDO Club Japan へもリーダーのマインドセット転換が必要だと働きかけているところです。
CDO候補を育てるのは時間がかかるので、即効性という点ではやはり外部から呼んでくるという解決策になりますが、企業の課題に応じてフルタイムでコミットメントしなくてもいいと思うんです。すると、雇う側もそういう雇用や契約形態を出せるかどうか、という話になってくる。
西口:なるほど。日本企業でそれをやるなら、社長直轄案件じゃないと。日本企業はいいモノやサービスは作るんですが、スケールさせるのがとても下手だから、外資に張り合うのが今すごく難しくなっている。
長瀬:そこをブレイクスルーするにも、トップの考え方が本当に鍵を握っていると思いますね。
西口:話が尽きないですね! 最後に、これからのビジネスにおいて注目すべきことは?
長瀬:中長期的な話で先ほどお話しした内容とも重複しますが、お客様やファンあってこそのビジネスなので、いかにお客様/ファンに楽しんでもらい、長く付き合ってもらえるかを考えていきたいです。数も重要ですが、それ以上に何をやるにも“質”ですね。
様々な分野や業態において個々の関係性を充実させて、素敵な、熱量の高い体験を提供していければ日本は大きく変わっていくと考えています。注目すべきは「質」よりも「熱量」かもしれません。
