透明性の高い情報を発信し社内外の情報格差を解消
――『メルカン』を運営する上で、大切にしていることは?
採用を強化し、会社を強くする目的が根底にありますから、自分たちのメディアとして、透明性の高い情報を発信し、社内外の情報格差をなくしたいという意図で運営しています。透明性の高い情報とは、正直であるということ。働き方改革が進み、副業などが広がると、会社に所属しないという選択も増えてくるでしょう。そのような時代で選ばれる会社であるためには、思いの共感や信頼できる仲間がいることが求められてきます。だから、情報には嘘のない透明性が重要なのです。
『メルカン』で取り上げることは、オフィスの内装や役員メンバーの紹介ではありません。たとえば、エンジニアと一言で言っても「エンジニアリングを極めたい」人と、「マネジメントにチャレンジしたい」人がいます。メルカンではその両方を取り上げますし、失敗談も載せます。インタビューに登場したメンバーのバックグラウンドまで聞きますから、その職種を目指す人には参考になりますし、コーポレートの仕事も細かく分けて記事にしています。
――企業が発信したいことではなく、読み手にとって知りたいと思う内容が記事になっているのですね。グローバルメンバーのことや、福岡・仙台オフィスの様子なども、オープンに語られています。
つい、読んでしまいますよね。さらに、『メルカン』は社内へ向けて書いているところもあります。たとえば同じ社内でも、専門領域の仕事はわかりづらいと感じることはありませんか?『メルカン』では、一般的にもその業務内容が知られにくい部門の仕事について、インタビューを掲載したことがあります。メンバーが仕事内容とともに語ってくれた「社内に話しやすい場を作り、すべての業務プロセスを理解しておく。メルカリをスケールする、重要なポジションでありたい」というメッセージは、社外だけでなく社内にも影響があります。メルカンは、社内報でもあるんです。このように、量ではなく、社内外に魅力が伝わるコンテンツを作らなくてはいけません。編集チームは大変ですが、難しいことをよくやってくれているなと思います。
――採用広報として、オウンドメディアを立ち上げてみたという企業は少なくありません。しかし、読まれないという課題が悩みのようです。メルカリでは、リファラル採用が多いとうかがいましたが、社員自らが情報を発信していくための仕組みがあるのでしょうか。
『メルカン』も少しずつPVが伸びていき、今は月間30万PVを超える規模となりました。しかし、KPIにPVを置いてはいません。オウンドメディアには、PV以外の指標を作ると良いのではないでしょうか。メルカンのKPIは、入社した人のメルカン接触率100%。面接前に読まれる方が多いのですが、こちらからも面接の日程調整のメール内に応募職種の記事をリンクしたり、職種に関しての質問があったときに該当記事を伝えたりしています。効率的ですし、採用候補者の理解も深まりますよね。オウンドメディアは、続けることが圧倒的に難しいものです。ですが、ダメならやめてもいいのだと思ってスタートすることもポイントです。トライすることが大事ですから。
――『メルカン』にも、バリューの「Go Bold」が息づいていると。では、発信力の強さはいかがでしょうか。
メルカリ内部からの発信力には、大きく2つの理由があります。1つは、経営陣の圧倒的な採用へのコミットメントですね。当たり前ですがオファー面談などへの参加だけでなく、採用会食など経営陣自らが採用のために行動しています。毎週のALL Hands(全社定例ミーティング)で「いい人がいたら紹介してください」と、ずっと声をかけているのです。トップが実行しているのを目の当たりにすると、私たちは「これが普通だ」と思うようになり、自ら動き始めます。
そして2つ目は、まだまだ課題はありますが、会社が魅力的であることです。リファラル採用に関しても、高い給与だけでは増えません。会社のバリューやビジネスに共感でき、一緒に働くメンバーが刺激的で、性善説のカルチャーがしっかり根付いている。その上で、人事制度やmerci boxなどのコンテンツがある。自発的に発信したくなるベースがあるからこそ、『メルカン』やSNSによるシェア、社員による声で広がるのだと思います。
人事を見える化するためのマーケティング思考
――インターネットによる求人・採用が当たり前となった中、マーケティング思考を取り入れた採用活動が注目されています。石黒さんは、なぜマーケターから人事へとジョブチェンジされたのでしょうか。
前職のNTTドコモでは、マーケティングだけでなく幅広い業務に関わっていました。キャリアを振り返ったとき、働く場が変わっても発揮できるポータブルスキルや自分のストロングポイントは、人事だと考えたんです。おっしゃるとおり、人事領域にマーケティング思考は間違いなく必要です。特に採用は、入社というコンバージョンがあるので、マーケティング思考が取り入れやすいと思います。
日々の業務でマーケティング的だと感じるのは、ATS(採用管理システム)で社員が登録するタレントプールでしょうか。いわゆる見込み顧客リストにあたります。採用候補者のアテンションを獲得し、どのようなステップを踏んでエンゲージメントを高め、応募のアクションを起こし、リレーションを作って、入社いただくか。セールスのマーケティングにも近いですね。
おしなべて人事の業界は、続けてきたことを止めることが苦手です。学校や合同説明会へ足を運び、リアルに会うことを優先していますが、それらの採用活動を数字によって効果測定をする視点はなかなか持ちにくいです。社内制度に関しても、制度がどのくらい社内で認知され、利用されているのかを数値でトラックしている事例はあまり見ませんね。これらにマーケティング要素を取り入れて、効果を見るのもおもしろいと感じます。人事は、ブラックボックスになりやすい。見える化、数字化していくことは私たちのテーマでもあります。
――見える化とPDCAは、マーケターが得意なところですね。では、マーケティングオートメーションのように、転職希望者へOne to Oneのメッセージを送り、採用につなげることも可能になるのでしょうか。
季節の傾向はあっても、転職は個々人のタイミングですから、いつという予測が立ちません。企業がコントロールできることは、転職潜在層が情報を探すときに、すぐ情報へたどり着ける環境を作ること。「転職しようかな」と考えたとき、思い浮かべた会社の中にメルカリが居続けることが大切なのです。上質な情報を出すことが第一で、それらを見ればわかる状態に用意しておく。ですから、自社のメディアを持っていると、外部環境や第三者の評価に左右されずに情報発信ができますし、『メルカン』はその強さができつつあります。働く場としてのメルカリの姿、そして私たちが伝えたいことを『メルカン』で表現していくことは大事にしています。