テレビCMの新しい形
――回答協力:TVISION INSIGHTS 共同創業者/代表取締役社長 郡谷 康士氏
多数のプレーヤーが勃興する米国のテレビ市場
日本のテレビ市場が激変している一方で、米国では一足先に、テレビマーケティングが現実になりつつあります。LUMA Partnersが作成しているカオスマップ「Convergent TV LUMAscape」を見ると、多数のプレーヤーが勃興し、まるで成長産業のような情勢です。
重要なキーワードの一つが「アドバンスドTV」です。アドバンスドTVは、近年急速に成長している、よりリッチなデータでの配信「データドリブンリニア」や自動取引の「プログラマティックTV」、個別配信の「アドレッサブルTV」などを包括した概念です。
デジタル広告におけるプログラマティック運用の普及にともない、数年前からプログラマティックTVへの注目が集まるようになりました。しかし現状では市場全体の1%にとどまっており、あまり広まっているとは言えません。テクノロジーは発達していますが、デジタル広告と同じようにRTBでプログラマティックにテレビCMを運用するには、まだハードルが高いようです。しかし普及には至っていないものの、プログラマティックTVへの注目は、テレビ市場を進化させなければいけないという議論のきっかけになりました。
また、近年のデジタル広告の不透明性・不正問題の勃発により、P&Gやユニリーバといった米大手企業のCMOが率先してデジタル広告へ投下する予算を削減した動きも、テレビ市場の活性化を後押ししました。
データを活用しテレビの価値を高める
そんな中、ここ1~2年ではアドバンスドTVの実現に向けて、テレビCMを出稿する枠の価値を高める方法に注目が集まっています。
視聴率だけで枠の価値を評価するのではなく、ターゲット含有率や視聴質といった様々なテレビデータや購買データを紐付けることで枠の価値を高める動きです。仮に視聴率が低い番組であっても、経営者層の50代男性の含有率が高く、注視度が高い枠だということがデータで示されれば、その枠に出稿したい企業も多いでしょう。
枠の価値を視聴率だけではなく、様々なデータと紐付けて価値を高め、広告主への新たな価値を示して提供するのが、アドバンスドTVの主流です。これを米国では、「データドリブンリニア」という言い方をします。
日米では放送形態に違いもあるため、直訳しにくいのですが、「リニア」というのは、日本での地上波のようなものです。地上波のテレビ番組・CM枠をデータドリブンで改善していくというのが一つのポイントです。
テレビCMの新しい形6秒CMは主流になるか
スマートフォンの普及によって、生活者が手軽に動画を消費する環境が整うにつれて、動画広告市場規模も大きく拡大しています。一方で、YouTubeのバンパー広告(6秒以下のスキップできない動画広告)をはじめ、尺の短い動画広告も一般的になりました。その背景には、これまでの尺の長い動画広告を煩わしく感じるユーザーが増えたことがあります。そしてこの波は、テレビの世界にも押し寄せています。
米放送局のFOXは、2017年8月、ティーンエイジャーがメインターゲットの番組で試験的に6秒CMを放映しました。これをきっかけに6秒CMの可能性へ目が向けられ、広告主の活用も徐々に広まり始めました。
2018年には、50の広告主が3,300種類の短尺CMを実験的に出稿しました。まだ、検証段階ではありますが、すべての年齢層で15秒と30秒の広告に比べて、ショートフォーム広告(6秒や5秒の短尺CM)は1秒あたり8%から11%高い注視を集めることが明らかになっています。尺が短い分、アテンションをキープさせる力が強いのではないかと仮説を立てています。
また、ARF(Advertising Research Foundation)とTVISION INSIGHTSによる独自調査では、下記のような6秒CMの効果が明らかになりました。
- すべての年代で注視度が高くなった
- デジタルと異なり、年齢による注視度に差はない
- テレビの総視聴時間が短い視聴者層の間での注視度が非常に強い
そして2018年12月、日本でもTBSテレビと博報堂DYメディアパートナーズが共同で、「6秒CM」と「Picture in Picture」を組み合わせた施策を実施し、TBS「SASUKE2018」で実際に6秒CMが流れたのです(図表4)。

その他、フジテレビ「フジボクシング2018」でも同様の取り組みがありました。実際に放送された結果を分析すると、それぞれの個人全体の注視度は、番組内全CM平均値(6秒CM除く)よりも高い結果になりました(図表5)。

これは既に米国では、視聴率が高いスポーツ番組等において高単価で取り引きされている手法です。広告主にとってはテレビCMの効果が高まり、またテレビ局にとっては秒単位の単価が上がる手法として、注目されています。
日本で6秒CMが主流になるには、価格やクリエイティブ作成の問題もあり、移行には時間がかかるでしょう。実際に米国でも、試験的に取り組む広告主が増えているものの、様子見が続いている状況です。
しかし、ビジネススキームが整えば、一気にこの流れは加速するでしょう。15秒と6秒では、クリエイティブの作り方も大きく変わってきます。短い尺の中で、どうすれば視聴者の注目を集めることができるのか。クリエイティブ制作にも、視聴質のようなテレビデータの活用が活きてくるでしょう。