なぜCXに時間という概念が必要なのか
最初に登壇したのは、日本オラクルの東裕紀央氏。ラスベガスのキーノートセッションの中でも、米オラクルのCX開発責任者を務めるロブ・ターコフ氏の講演"Customer Experience is a battle against time"にフォーカスし、「時間」という概念でCXを捉え直すことの必要性を説いた。
CXと時間にはどのような関連があるのか。東氏は「現在のExperience Economyという経済環境においては、顧客自身がイノベーションや新しいサービスのあり方をけん引する力をもっています。こうした中、オラクルでは、Discover(発見)、Engage(エンゲージ)、Consume(購買)、Serve(サービス)というCXの4つのステージにおいて、顧客時間という概念で設計することが重要だと考えます」と説明する。
いかに迅速に顧客に気づいてもらえるか、そして詳細な情報をどれだけ速く届けられるか、継続的なリレーションシップやレスポンスをいかに速くするか。「こうした経験が価値となり、CXや顧客満足度の向上につながります」と東氏は語る。オラクルでは、こうした次世代のCXを支える概念として「リアルタイムCX」を提唱している。この「リアルタイムCX」については、こちらの記事でも取り上げている。
マーケティングアワード「Markie Award」に参加する意義
続いて登壇したのは、Modern Customer Experienceで最大のイベントである「Markie Award」に参加した日本電気(以下、NEC) の東海林直子氏と、NTTコミュニケーションズの前田哲彦氏の2名。Markie Awardとは、BtoBマーケティングやCXに取り組む先進企業を表彰するアワードで、今回で13回目の開催となる。
アワードの全14カテゴリーの内、NECとNTTコミュニケーションズが参加したのは「ABM(Account Based Marketing) 」というカテゴリーだ。日本オラクルの中里美奈子氏がモデレーターを務めた本セッションでは、ファイナリストにまで残った両氏が、Markie Awardに参加した意義や狙い、今後について語り合った。
中里氏がMarkie Awardに参加した理由を尋ねたところ、両氏はそれぞれ「デジタルマーケティングの本場である米国で、様々な企業と課題を共有すると共に、自分たちも顧客にデジタルトランスフォーメーションを勧める立場として、自社の取り組みを認知してもらうきっかけにしたかった」(NTTコミュニケーションズ前田氏)、「グローバルなスタンダードのアワードに応募することで、自社のレベルを客観的に知りたいと思った」(NEC東海林氏)と語った。
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ABMは日本企業に適したマーケティングスタイル
デジタルマーケティングは米国のほうが進んでいる印象があるが、実は「ABM」というカテゴリーで考えると、日本の営業スタイルとの相性がいい。企業アカウントで営業をかけていくやり方は、古くから多くの日本企業が取り入れているためだ。
NECは「イベントやメディアの記事、2019年からは広告も加え、様々な施策を連動させてOracle Eloquaにつなげ、顧客を抽出してABMを展開しています。広告から流入する匿名ユーザーに関してはAIを活用し、潜在顧客を抽出して実名リードを取る試みも進めています」(東海林氏)と説明する。
今後は国内外でバーチャルな組織を作り、海外まで含めた形でABMを活性化していく方針だそうだ。
NTTコミュニケーションズは「営業という限られたリソースで、既存顧客の新規商談、新規部門開拓をすべて担うのは困難なので、マーケティングと連携し、営業ができない部分をABMで補完する仕組みを作りました」(前田氏)と語る。
特徴としては、セミナーへの集客や参加など、営業担当の活動もABMのスコアリングに反映することで、営業部門の積極的関与を実現したことだ。これにより、リード商談化率は最大60%向上し、パイプラインも金額ベースで約10倍という成果が得られたという。今後は引き続きリードの質向上のほか、「西日本方面でもABMの手法を取り入れた営業活動を展開していきたい」(前田氏)と抱負を述べる。
両氏は最後に、来年のMarkie Awardへの参加意欲を示すと共に、「日本のファイナリストが増えることを期待しているので、ぜひエントリーを」(東海林氏)、「BtoCの賞も増えているので、日本のマーケティングを盛り上げるためにも、多くの企業が参加してくれると嬉しい」(前田氏)と、イベント参加者であるマーケター達に呼びかけた。
リアルタイムCXを実現するOracle CX Unityとは
続いて登壇したのは、日本オラクルのCXソリューション部門を統括する宮川崇氏で、オラクルが考える「次世代のリアルタイムCX」を実現する最新ソリューションの数々を紹介した。
オラクルが提唱する近代的なCXを実現する鍵は、もちろんリアルタイム性だ。そのリアルタイムなCXを支援するソリューションとして、同社が2018年10月に発表したのが「Oracle CX Unity(以下、CX Unity)」となる。このソリューションを支えているのがマシンラーニングなどのAI技術だ。宮川氏は「CXの阻害要因となっている、バラバラな顧客タッチポイントで管理する顧客情報を統合して分析し、実際のアクションにリアルタイムに反映させるソリューションです」と説明する。
宮川氏によるとCX Unityは、今注目されているCDP(Customer Data Platform)に対応するものだという。CDPは顧客データ基盤とも呼ばれるが、従来の顧客データベースやDWH、DMPと異なる点がある。それは、電話やメールアドレス、SNSのアカウントなど、一人の顧客が複数のタッチポイントやデバイスを使い分けるようになり、顧客情報を統合することが難しくなっている昨今、CDPが目指すのは、まさにこの顧客情報の統合にある。
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AIを取り入れ、マイクロモーメントで最適な顧客対応を支援
だがそんなCDPにも課題がある。それはまだ新しいソリューションなので、機能や定義が統一されていないことだ。広告配信用のDMPをCDPとしているケースもあるし、データ分析基盤をCDPとしているベンダもある。
「これに対しCX Unityは、自社内にあるファーストパーティデータからサードパーティデータ、アノニマスの情報など様々な情報を集約し、AIを活用してデータを分析して顧客理解を深めます。これだけなら従来のCDPと同じですが、CX UnityではさらにCustomer Experience Cloudと連携して様々なチャネルの施策に分析結果をリアルタイムに反映し、CXの向上やLTVの増大につなげることができるのです」(宮川氏)
CX Unityでは、エンゲージメントの強さといった数値化が難しい物でも、AIで判断してスコアリングし、そこからインサイトを得ることができる。スコアリングしたセグメントごとに顧客の特性が把握できれば、サードパーティデータを掛け合わせて、新規顧客の獲得や広告戦略にも活かすことが可能だ。現在CX Unityは開発中だが、AIに関しては業種別分析テンプレートなども豊富で、導入後すぐに利用できる点もメリットだという。
またマーケターだけでなく、営業活動でもこのリアルタイム性が遺憾なく発揮されるのもポイントだ。次世代の営業担当者向けUIでは、顧客の行動履歴がタイムラインのように表示される。また「資料をダウンロードした」というような重要行動を取った場合は、AIが営業担当者に電話をかけるようにレコメンドし、CTIと連携していれば画面UI上から直接電話をかけるなど、顧客のマイクロモーメントを逃さず、効率的かつ最適できめ細やかな営業活動を実践可能になる。電話後のお礼やフォローメールの作成も自動化され、営業担当者の負荷を軽減しつつ顧客とのエンゲージメント強化につなげる。
またBtoBの企業情報を集約し、営業用のナレッジとして自動的に情報を提示するOracle DataFox(※)も搭載するとのこと。あらゆる角度から「マイクロモーメントをつかみ最適な対応」を支援することで、CXを強化する構えだ。
※Oracle DataFoxについてはこちらのプレスリリースをご確認ください。
日本企業が世界の最先端マーケティング企業に追いつくには
最後に登壇したのは、アンダーワークス シニアコンサルタントの赤木一平太氏。アンダーワークスはデジタルマーケティング分野のコンサルティングファームであり、戦略立案からデータ統合、MAツールの導入、活用まで幅広い事業を手がけている。「マーケティングテクノロジーカオスマップJAPAN」の提供元としても名高い。
赤木氏は2017年から同社のコンサルタントとして勤務し、Oracle Eloquaのプロフェッショナルとして数々の企業を支援してきた。ラスベガスのModern Customer Experienceへの参加は、今回が初めてだという。最後のセッションでは、そんな赤木氏が、今回のラスベガスのイベントで感じたことや得た知見を余すことなく語った。
赤木氏がこのModern Customer Experienceに参加して驚いたことは、とにかく「華やか」であること。「ビジネスイベントなのか、それとも映画や音楽アワードの会場か」と見紛うほどに華やかで、堅苦しくなく、それが良い雰囲気を醸し出していたという。
そんな赤木氏がイベントを通じて感じたことは、「CX向上を考えると、顧客データの統合はもはやトレンドではなく、インフラになる」という“予感”だ。カオスマップの例を出すまでもなく、顧客接点がデジタル化することで様々なデータが取れるようになり、それに呼応するように多種多様なベンダーがツールを提供している。赤木氏もかねてより「ツールによる顧客接点の個別最適が進むことで、顧客に対する一貫したメッセージやパーソナライズからは遠ざかってしまうのでは」と感じていたそうだ。
そうした懸念に応えるように、イベントで詳細が発表されたCX Unityには「可能性を感じるし、期待もしています」と評価する。
またMarkie Awardにも参加し、最優秀賞を受賞した先進企業の取り組みを聞いたところ、「やはり日本と世界の最先端企業の間には差がある」と実感したという。「多くの日本企業では、MAツールの選定に1年以上費やしたり、導入したけれど使えなかったり、メール配信以上のことができていなかったりと、なかなか先に進めなくて困っているようです。この停滞を打破し、先進企業に近づくには、トライアンドエラーを繰り返して一歩一歩進むしかありません」と赤木氏は言を強くする。
たとえ失敗しても、一つでも何かを実行すれば改善すべきポイントは見えてくる。赤木氏は「試行錯誤をし、示唆を得ることが、今日本のマーケターに必要なことかもしれません」と話し、講演を締めくくった。
・【オンデマンド版】Modern Customer Experience 2019フィードバックセミナー Part. 2