アドビ社員が毎日の業務で使うダッシュボード
――実際の業務ではどんなダッシュボードでデータを見ていますか。
社員がログインして最初に目にするのは「SUMMARY」タブの内容です(図3)。この他に、DDOMの5ステップのタブごとに関係者それぞれが見るべきKPIを整理しています。先に挙げたダッシュボードはDiscoverのタブです。

サマリービューの画面を見ると、最上部にフィルターがあり、すぐ下の左側に最重要指標である「Net New ARR」とその内訳「Gross New ARR(新規獲得分のARR)」「Cancellation ARR(解約分のARR)」「FP Renewal & Upsell ARR(契約更新とアップセル分のARR)」を表示しています。その右側は週次ベースでの推移を示しており、実績値(水色の縦棒)に対するターゲット値(オレンジの折線)や前年同期(茶色の折線)などとの比較が可能です。画面下部はステップごとの主要KPIを表示しています。
私たちは月曜日に出社したらすぐに先週末時点の「Net New ARR」を確認し、当該四半期中のターゲットの達成が可能かを検証します。過去のデータを基にした予測から達成が困難とわかった場合は、リカバリープランを作ります。
仮にトラフィックやUQFMが想定よりも少ないことがわかったとしましょう。マーケティングチームとは毎週月曜日に定例会議を実施していますので、広告への投資を増やすといったアクションを月曜日中に決め、翌日からそのプランを実行に移すといった具合に最適化を繰り返していくのです。
ダッシュボードはMicrosoft Power BI を用いており、Adobe Experience Platform上に集約した各種データに接続しています。実はDDOM以前は共通のデータソースがないことが原因で、データ集約にもっと時間がかかっていましたし、同じ指標を見ているはずなのに海外拠点と数字の認識が合わずモメることもありました(笑)
Adobe Experience Platform上に「SSOT:Single Source Of Truth(唯一の真正なデータソース)」となる環境を整備したことで、週単位でPDCAサイクルを回すことができるようになりました。今では日本のGTMだけでなく、全世界の関係部署が毎日のようにこのダッシュボードを見ています。
「とにかく顧客体験」、それがサブスクビジネスの強み
――今のPDCAサイクルが確立するまでには数々のチャレンジがあったわけですね。最後にDDOM推進についての今後の展望を聞かせてください。
このダッシュボードは常に進化していて、「ROADMAP」のタブを見れば、これからダッシュボードに実装予定の機能がわかるようにもなっています。たとえば、最近注力しているCreative Cloudのモバイルアプリ独自のカスタマージャーニーに対応するなど、ダッシュボードは日々改善を重ねているのです。
チャネルによってはカスタマージャーニーがECと大きく異なり、同じダッシュボードにすべての情報を載せることができないものもあります。ですが、DDOMという考え方は着実に根付いてきており、Creative Cloudをめぐるビジネスの基本になっています。

DDOMを導入したことを機に、マーケティングもセールスも行動が大きく変わりました。サブスクのビジネスでは、お客様に使ってもらい、満足してもらって更新してもらうことが重要です。「お客様に愛される製品はどんなものか」を念頭に置き、ビジネスを成長させていくことを私たちは常に考えています。
アドビを含めて様々な会社が「顧客第一主義」「顧客体験」の重要性を訴えていますが、カスタマージャーニーのあらゆる顧客接点で本当に満足してもらうことがサブスクの要諦になることを強調しておきたいと思います。