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MarkeZine Day(マーケジンデイ)は、マーケティング専門メディア「MarkeZine」が主催するイベントです。 「マーケティングの今を網羅する」をコンセプトに、拡張・複雑化している広告・マーケティング領域の最新情報を効率的にキャッチできる場所として企画・運営しています。

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MarkeZine Day 2025 Retail

定期誌『MarkeZine』特集

ブルーオーシャンでしか勝負しない 「ワークマンプラス」のブランド戦略とデータ経営

“機能性×安価”を狙った新店舗「ワークマンプラス」

――なかなかの結果ですね……。

 愕然としましたね。ただ、既に他社のいる市場で競争はしたくないので、色や柄などのバリエーションを増やしながら価格も抑えた製品群を増やしました。そうしたら、店舗スタッフから「作業服をバイクのライダーが買っている」「アウトドア用途で使われている」という声が上がるようになったんです。

 分析すると確かに、仕事用にしては派手なタイプが売れていたため、2017年にアウトドア、スポーツ、レインのそれぞれ一般向けに寄せた3つのブランドを開発しました。すると初年度の売上30億円が倍々で伸長し、2019年3月期には120億円を達成したのです。加えて既存の1,700アイテムのうち2割ほどは、そのまま一般にも販売できる製品だったので、この3ブランドを合わせた一般向けの展開は十分あり得ると考えました。

 改めて一般向けアパレル市場のポジショニングを分析すると、高価格帯ではデザイン性、機能性の両軸ともに以前から強いブランドが存在し、近年はデザイン性が高く安価なポジションとして国内や海外のファストファッションが位置しています。ですが、機能性重視で安価な市場は空いている。試算すると4,000億円相当の市場だったので、シェア25%の1,000億円を目標に、一般向けの店舗ブランドを計画しました。それが「ワークマンプラス」です。

アパレル市場マップと「ワークマンプラス」のポジショニング
アパレル市場マップと「ワークマンプラス」のポジショニング

――なるほど。ただ、一般でも使える製品はプロ向けよりも真似しやすいでしょうし、価格的にも対抗される心配はなかったのですか?

 既存のプロ向け市場でも、すぐに模倣品は出てきます。ですが、通常30〜40%の原価率の中、当社は様々な企業努力で63%という圧倒的な原価率を誇り、コストパフォーマンスの高さには絶対の自信がありました。

 この数年のデータ分析で、需要予測もかなり精緻化しましたし、新製品は数万点しか生産しないため、残って叩き売る必要もない。それに、うまくいかなければまたNo.1のプロ向け市場に引きこもって次の策を練ろうと思っていたので、心配はありませんでした。

 ただ、かといって確証があったわけではないので、2018年9月に実験も兼ねてららぽーとへの出店を決めました。読み通り、アイテムの見せ方を一般のアウトドアユーザー向けにしたことで、店舗におけるUXが変わり、手応えのある結果が得られました。そこで今、攻勢をかけているところです。

2018年9月にオープンしたワークマンプラス立川立飛店
2018年9月にオープンしたワークマンプラス立川立飛店

誰でも「自分向け」と思う店作り

――すべてのアイテムをゼロから開発するのではなく、既存のプロ向け製品から転用するのは効率的ですね。

 そうなんです。ワークマンには当然、専門工具や土のうなどもあるのですが、ウェアや靴などは普通に使えます。我々が戦略的に打ち出す前に、ライダーやアウトドアのユーザーにそれを教えられたという感じですね。

 製品以外でも、いくつかの観点でワークマンとワークマンプラスは“二毛作”状態なので、ワークマンプラスの新規出店と並行して既存のワークマン店舗の全面改装も進めています。元々ワークマンはプロの方の出勤前後、朝晩に来店客が多く、片や一般の方は昼間や土日に来店します。プロ市場は何十年とやっているので、ワークマンと掲げていれば欲しいアイテムをちゃんと見つけていただけますし、作業服のトレンドも派手めになっているので、ワークマンプラスに改装しても離反のリスクは少ないと踏んでいます。

――店頭作りの工夫で、どちらの方にも「自分向けだ」と思ってもらえるということでしょうか。

 そう考えています。プロから見ると今まで通り100%自分向けに見え、一般の方には店内の7割が「一般向け売り場」に見えるようにしています。3月に大阪、広島、福岡の既存店を改装しましたが、今のところ順調です。

競合と抱き合わせで日経トレンディのヒット予測獲得

――狙いを定めた新店舗開店だったということが、よくわかりました。その後のブランド浸透については、どのようなお考えがあったのですか?

 実はいくつか、私の思い違いがありました。いずれも周りが反対して正してくれたから、今のワークマンプラスがあると思います。たとえば、はじめは「WM+」というブランド名を考えていて、ワークマンを隠すつもりだったんです。でも、出店の相談をしていた、ららぽーとを運営する三井不動産商業マネジメントさんに「“ワークマン”をぜひ残してほしい、隠すなら出店は難しい」と言われまして。

 当社は一般アパレルには素人ですし、そもそも出店するモールも、私はららぽーとのようなプレミアム系ではなく採算性の良いショッピングモールを考えていたくらいなんです。素人だから、その道のプロがそうしろと言うならとワークマンプラスにした結果、大きな成果が得られました。「ワークマン」のブランド価値を実感させられましたね。

――土屋さんが広報も管轄されているとのことですが、ワークマンプラスはこの半年で50ものテレビ番組に取り上げられ、2018年末発表の日経トレンディ「2019年ヒット予測ランキング」では、堂々1位に「デカトロン&ワークマンプラス」が輝きました。デカトロンとは、フランスのスポーツ・アウトドアブランドだそうですね。

 このセットで注目が集まるようにしたのは、実は意図的なものでした。実際にはデカトロンは我々よりもハードな環境に耐えるスポーツやアウトドア用品メーカーで、先の4象限でも競合になっていないのですが、ちょうど彼らが2019年春に上陸するタイミングだったので、日経トレンディの記者にぜひデカトロンを取材してほしいと誘導したんです。

 我々だけだと注目を集めづらくても、一見似たようなブランド同士が“VS”という構図になると、取り上げられやすいですよね。我々が先に出店を決めていた西宮に彼らも来ることになってしまったんですが、それを嘆かずに、逆に利用して“西宮戦争”としてメディアにアプローチしました。

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溶接用のエプロンがバーベキュー用途に

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この記事の著者

高島 知子(タカシマ トモコ)

 フリー編集者・ライター。主にビジネス系で活動(仕事をWEBにまとめています、詳細はこちらから)。関心領域は企業のコミュニケーション活動、個人の働き方など。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2021/02/26 17:49 https://markezine.jp/article/detail/31343

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