溶接用のエプロンがバーベキュー用途に
――既存のプロユースのターゲットと、たとえばバイクのライダーやアウトドアユーザーでは、要望がかなり異なってくると思います。それらは製品に反映されているのですか?
その点はユーザーの声を徹底的に聞いて、製品改良を重ねています。当社製品は毎年新しいモデルを出しているものが多く、色やちょっとした機能を常に改善していますが、元々の1,700アイテムから一般向けに切り出すものは、3年ほど前からブロガー向けの新製品発表会を行い、そこでのご意見を反映しているんです。最近はブロガーを含めたインフルエンサーとメディアを招いて、実施しています。
たとえば、溶接用の火に強いエプロンが、実はバーベキューで使われていたりするんですよね。それならもっと楽しく着られるようにと、色展開を増やしています。ライダーが着ているパンツも「裾がバタつく」と言われたので、裾を留められるテープを付けました。
――なるほど。ただ、そうやってどんどん新しくしていくと、当たり外れや売れ残りが出たりしませんか?
そうですね、これはあまり他社さんには理解しづらいかもしれませんが、当社は「目標は立てるが期限は設けない」がモットーなんです。売れなければ売れるまで売る。目標値を達成しなければ翌年に持ち越して、達成するまであきらめない。
だから、達成率は100%なんですよ(笑)。担当者も成功するまで絶対に変えず、プレッシャーも年間のノルマもありません。また、新製品や新モデルも1年目の売上にはこだわりません。多少外れても、850店舗もあるのでどこかで買ってもらえます。
複数データをもとに売れ残りにアラートを
――データを扱える人材を増やして、データ経営を実現しているというお話がありました。新製品の売れ行きや在庫の状況なども分析されているのですか?

はい。たとえば当社では、「売れ残りアラート会議」というのを実施しています。残りそうなものを分析するのですが、ひとつのデータプールではなく、商品部とロジスティクス、スーパーバイザー、営業がすべて異なるデータを持ち寄って、それで余剰分とその対策を議論します。その会議に挙がったものは各店舗でひっそりと売り切るので、残って困ったことは一度もありませんね。
デザインを含めて、製品作りにはやはり感性が欠かせません。デザイン系のスタッフには、自由に創作活動をしてもらうのが大事だと思っているので、経営からは口を出さないんです。でも一方でデータはロジカルに詰められるので、データを扱える約2割のスタッフを中心に分析にあたっています。両方のバランスが大事ですね。
――大ヒットの背景には、デザインとデータの両輪がうまく回っていることもあったのですね。最後に、今後の展望をうかがえますか?
ワークマンプラスとしては、2年目以降もどんどん伸ばしていきます。先ほどの二毛作の話に関連しますが、いろいろと施策の構想もあります。たとえば、昼と夜とで「ワークマン」「ワークマンプラス」の看板が入れ替わるようにするとか、その装置自体をショーにしてしまうとか。時間帯で、店内の照明や香りを変えるのもおもしろいですね。あるいはアウトドアの雨や風に強い商品なので、過酷な環境でファッションショーをするのもひとつです(笑)。
会社としては、社員がキリキリとがんばらなくても余裕で活躍できる会社にしたいですね。この5年で、残業を減らしながら年収100万円増を実現でき、今後も伸ばしていけそうです。株主に対しては、やはり配当が伸び続ける会社にしないといけないので、利益の上がる第3、第4の業態の開発も検討中です。たとえば、長靴市場で12%のシェアを獲得しているので、既存商品を再編するだけで長靴・ブーツ専門店も作れます。
もちろん顧客に対しても、原価率を現在の63%から65%にさらに上げて、より良質で手ごろな商品をお届けしていきます。「機能と価格に新基準」という当社の社是の通り、プロ向けでも一般向けでも圧倒的な品質と価格で新しい基準を打ち立てていきます。