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「リアル空間をWebと同じように分析する」 アドインテがAIBeaconで目指すOMOとは

 日本マイクロソフトは2019年6月21日、「デジタル時代の真の顧客時間獲得に向けた『リアル空間Web化ソリューション』セミナー」を開催した。本稿では、マイクロソフトのパートナーであり、Webとリアルの融合で新しい価値の提供を目指す、アドインテの取締役副社⻑ 稲森学氏が登壇したセッションの様子をお届けする。

従来のBeaconには、致命的な欠点があった

 DSPやDMPを軸に、Web広告事業を手掛けるアドインテ。最近では「AIBeacon(エーアイビーコン)」を活用した位置情報データサービスも展開している。同社がBeacon開発に至ったのは、顧客からのある要望がきっかけだった。とあるメーカーから「Web広告をクリックしたユーザーが、実際どれだけ来店しているのかを知りたい」というリクエストを受けたのだ。

 「リクエストを頂いたのは約5年前。当時はO2OやOMOという言葉もまだ浸透しておらず、どう実現すればいいのかわからなかったため、様々な事例を調査してみました。調査を進めていくと、海外でBeaconを活用したO2O事例がいくつか見つかったので、当社でもBeaconをテスト導入してみたんです。ただ、当時はまったく活用できませんでした」(稲森氏)

 Beaconは基本的にBluetoothを利用する位置特定技術のため、検知するにはデバイスのBluetoothがオンになっている必要があるうえ、専用アプリが必要だった。つまり、ユーザーが持つスマホのBluetoothがオンの状態で、なおかつ専用アプリがインストールされている状態でなければ、検知できなかったのだ

 「大手小売店でBeaconをテスト導入し、来店者数を計測してみました。その結果、1日に何千人も来店する店舗なのに、Beacon上では数人という計測結果でした。これではビジネスに活用することはできないな、と。そこで、『使えるBeacon』を自分たちで開発しようと決意したのです」(稲森氏)

次世代型Beacon「AIBeacon」を開発

 その後、開発期間を経て2015年5月にリリースされたAIBeaconは、「Wi-Fiでも検知可能」「専用アプリ不要」と、従来のBeaconが持つ欠点をクリアにしたものだった。Wi-Fi対応にしたことで、計測可能範囲は半径数十メートルからMAXで約180mになり、個人情報を取得することなく、匿名のアクセス情報も取得できるようになった。取得した情報はアドインテDMPに蓄積され、様々なマーケティング施策に活用することができる。

 稲森氏は、複数の導入事例を紹介しながら、AIBeaconの強みを説明する。

 「たとえば、小売業の店舗にAIBeaconを設置したとします。そうすると、来店客がどのように行動しているのかを、分析することができるようになります。さらに、数多くいる来店客のなかから、『高額決済者』『リピーター』というように、ユーザー属性を細分化して分析することも可能です。彼らの行動を分析することで、より購入が起きやすくなるような店舗の導線設計にする、といった施策が打てるようになるのです」(稲森氏)

株式会社アドインテ 取締役 副社長 稲森学氏
株式会社アドインテ 取締役 副社長 稲森学氏

 ある小売チェーン店ではAIBeaconを活用し、店舗ごとにどれだけ顧客属性が異なるのかを分析し、ローカライズの参考情報を得ているという。また、AIBeaconは計測可能範囲が広いため、店舗内に置くだけで店舗周辺の通りにおける通行状況も確認できる。またGPS情報と掛け合わせることで、自社の顧客がどの程度競合に流れているのかも把握することが可能だという。

交通広告の効果測定も可能に

 AIBeaconは、交通広告やOOHメディアの効果測定にも活用できるという。とある飲料メーカーでは、各種グルメフェスにたびたび協賛し、そのたびに交通広告を展開していたが、出稿場所が適切なのかどうかを計測できていなかった。そこでイベント会場にAIBeaconを設置し、来場者のGPS情報から大凡の勤務地等を類推分析し、交通広告との相関関係(交通広告を見てイベントに来たのか)を調べられる状態にした

 「特に都心部に店舗を構えるクライアント様からは、来店者の勤務地分布を知りたいという要望をよくいただきます。周辺で勤務されている方だとわかれば、リピーターになっていただくための効果的な施策を打てるためです」(稲森氏)

 また交通広告だけでなく、Web広告のリアルへの貢献度も測定可能だという。

 「デジタル上ではデータ統合が進み、一人のユーザーがどのチャネルに訪れても同一IDとして認識できるようになってきました。ただ、リアルも含めた統合はまだまだ進んでいないのが現状です。

 たとえばあるメーカーでは、リアルとWebでカスタマージャーニーが分断されていることに課題を感じていました。そこでAIBeacon、Webそれぞれで取得したユーザーデータをアドインテDMPに蓄積し、ユーザーの集合と特徴が類似する広告配信IDの集合を構築しています。そうすると、WEBでも、リアルのチャネルでも1つのIDとしてトラッキングできるようになるので、Web広告に触れたユーザーがどれだけ店舗やイベントに訪れているのかも計測することができるのです」(稲森氏)

なぜユーザーの詳細な属性情報がわかるのか

 では、なぜAIBeaconは居住地や勤務地など、ユーザーの詳細な属性情報がわかるのか。Wi-Fiから取得できるデータはあくまで匿名の接触履歴だけなので個人情報は一切取得できず、また、個人識別データとの紐付けもできない 。

 その理由はアドインテが編み出したデータ分析手法にあるようだ。

 「みなさんが疑問に感じたとおり、Wi-Fi情報だけでは正確なユーザー属性はわかりません。GPSで許可をしているユーザーの行動履歴とWi-Fi情報を分析することで、来店頻度が高いお店や、おおまかな勤務地や職業までを推定しているのです。具体的には、Wi-Fiの取得データとスポットの共起関係をスコア化し、この点数を積み上げた人はこのような属性を持つ、というような分析を行っています。たとえば基本は同じ場所に留まり、日中にスーパーに行くことが多いユーザーは主婦、大学に行き来しているなら学生の可能性が高い、というような分析方法です」(稲森氏)

大手データ事業者との連携で、高精度な分析を実現

 またAIBeaconは、様々なアプリや、SSPなどのネットワークとの連携を行っているため、高精度な類推分析が可能なのだという。

 「国内外の大手プラットフォームとの連携も進めていきインバウンドや越境ECの分析を行うことも目指しています」(稲森氏)

 AIBeaconとアプリやネットワーク、プラットフォームの連携を進めるアドインテ。同社が目指すのは、リアル空間をWebと同じレベルで分析し収益化までできる世界だ。リアル空間をWeb化できると、収益構造にも変化が起きる

 「化粧品をよく購入する人に向けて化粧品をお薦めする行為は、Webでは当たり前に行われていますが、リアルではほとんどできていません。当社は、リアルでもDSPやリターゲティング広告のような仕組みを開発しているところです。

 たとえば、店内で化粧品コーナーに長く滞在している傾向のある来店者集合に向けて化粧品メーカーが広告を配信し、店舗側が1配信ごとに広告収益を得られるようなイメージです。今までの小売店は、商品を買ってもらえないと収益が上がらなかった。でもこのような広告の仕組みがあれば、今後は買っていただかなくても収益を上げられるようになります」(稲森氏)

マイクロソフトとも協業し、オフライン版Googleアナリティクスを目指す

 人口減少時代、ただひたすらに商品売上数を追っているだけでは小売店の成長は望めない。商品販売以外で売上を立てられるような構造が必要だと考えた末に行き着いたのが、リアル空間にWeb広告的な仕組みを導入することだった。海外では、紹介料で稼ぐ小売店舗もできてきている。そのためには、Web上でユーザー行動をトラッキングするように、リアルでもあらゆるユーザー行動をデータ化する必要がある。

 「AIBeaconの行き着く先は、リアル空間の標準計測ツールです。ほとんどのWebサイトがGoogleアナリティクスを導入して自社ユーザーの行動を分析する感覚で、小売店もAIBeaconで来店客の行動を分析するのが当たり前な状態を目指しています

 そのため、私たちは日本マイクロソフト様との協業によって、AIBeaconの基盤として、世界中で標準的に採用されているクラウド『Microsoft Azure(マイクロソフト アジュール)』および分析ツール『POWER BI』を採用し、膨大なデータの蓄積・管理や高度な分析を、誰にでも実施いただけるような環境を実現してまいります」(稲森氏)

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この記事の著者

水落 絵理香(ミズオチ エリカ)

フリーライター。CMSの新規営業、マーケティング系メディアのライター・編集を経て独立。関心領域はWebマーケティング、サイバーセキュリティ、AI・VR・ARなどの最新テクノロジー。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

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MarkeZine(マーケジン)
2020/05/08 12:30 https://markezine.jp/article/detail/31446