ビジネスパーソンがアカデミアに足を踏み入れる理由
安成:2019年4月からMarkeZineの編集長に就任した安成です。今日は、日本マーケティング学会で副会長とマーケティングジャーナル編集委員長を務める、法政大学の西川先生を訪ねています。
昨今、ビジネスの一線で活躍しながらも、大学院やMBAに通うマーケターやビジネスパーソンが増えているように感じています。西川先生のゼミにも、そういった方々がいらっしゃるかと思いますが、みなさんはどういった目的で通われているのでしょうか?
西川:研究がしたいという動機だけではなく、普段取り組んでいる実務自体をブラッシュアップして自身のステージを上げたいと考えているのではないでしょうか。大学院やゼミで学んだ新しい理論や知識と、実務とを組み合わせることで、新しいアイデアや発想が生まれることを期待しているように思います。
安成:キャリアアップを見据えて、入学される方も多いのでしょうか?
西川:そうですね。最初の入り口では、単純にキャリアアップや、仕事に向き合う中での悩みや課題を解消する取っ掛かりができればなど、割と気軽に足を踏み入れている人も多い印象です。
安成:気軽な動機で入るには、大変なイメージがあるのですが。
西川:資料づくりや発表があるので、そうしたことに慣れていない方だと最初は大変と思われるかもしれません。ですが、走り出すと慣れてきますし、一人でなく仲間と一緒に取り組むので、そこまで苦労されている様子は見えないですよ。
「ジェットコースターみたいに、乗るまでは怖いけど乗ってしまえばあっという間」と表現した修了生がいましたね。そんな感じに、気付いたら2年間終わってしまっていたという人のほうが多いのではないでしょうか。ビジネスとまったく違う世界を知るチャンスがあるので、それを知らずに1回限りの人生を終えるのはもったいないですね。
アカデミックな発想を、ビジネスに応用する
安成:西川先生は民間企業での経験を経てから大学の先生になられていますが、もともとそういったキャリアを歩みたいと考えていたのでしょうか?
西川:実はまったく、志していたわけではありませんでした。ワールドに在籍していた当時、働きながら大学院に通う先輩がいて、面白そうだなと思って自分も軽い気持ちで大学院に通い始めたのがきっかけでした。
その頃、会社では新規事業のビジネスモデルを作っていたのですが、大学院で学んでいく中で、単に仕組みをつくるだけでは駄目で、理論が大事だということを教えてもらいました。印象深かったのが、『マーケティングの神話』の著者で、ゼミの指導教員でもある石井淳蔵先生から学んだ「コンビニの仕組み」の話。夫婦一緒に働ける喜びという家族制度がコンビニのビジネスモデルには織り込まれている、という話でした。それまでそんな発想を持ったことがなかったので、新しい視点をもらいました。
そのうち会社の中でも、そうした知識を組み合わせて実務に活かす場面が増えていきました。会社でビジネスの知識や考え方は身に着けていましたが、それに加えてアカデミックな、ともすれば一瞬無駄に思える話が入ってくることにより、モノの考え方が深まったり、自分の発言もどんどん変化していくのを実感しましたね。それが楽しかったこともあり、アカデミックの世界へ入りました。