DXにともない大きく変化する「購買プロセス」
法人向けクラウド名刺管理サービス「Sansan」と個人向け名刺アプリ「Eight」という2つの名刺管理サービスを提供するSansan。「MarkeZine Day 2019 Autumn」に登壇した里見啓太氏は、Sansanの新ソリューションである「Sansan顧客データHub」(以下、「顧客データHub」)のプリセールスを担当し、顧客に対して、営業技術の立場で課題解決のための提案を行なっている人物だ。
里見氏は、「今、デジタルトランスフォーメーション(以下、DX)により、顧客の購買プロセスには大きな変化が起きています」と語る。DXとは、テクノロジーの利活用によって新たなサービスを生み出していくという考え方で、ビジネスの根幹を揺るがす大きな変化として注目されている。
たとえばタイヤメーカーのミシュランでは、運送会社のトラックとタイヤにセンサーを付けることで、燃料消費量やタイヤの空気圧、気温、スピード、ロケーション情報等をクラウド上で管理できる新たなサービスを展開。ユーザーに「燃費の良い走行体験」という新たな体験を提供するとともに、タイヤに異常が発生した際には、運送会社など関係各所へ通知を送り、トラックの運行が遅延するリスクも大幅に軽減させている。
里見氏はこうしたDXの流れにより、「顧客の購買プロセス」に大きな変化が起きていると述べる。
「たとえば、以前は顧客から問い合わせがあった際には、企業の営業担当者が直接出向き、サービス紹介をしていました。つまり、営業担当者が購買プロセスを管理することができたのです。しかし、オンラインチャネルが普及したことにより、顧客は自身で製品やサービスの情報調査を行い、比較検討ができるようになりました。また顧客同士でつながり、情報交換することも可能になりました。そのため、今や営業担当者が顧客に会う頃には、“購買プロセスの約半分は終了している”状態なのです」(里見氏)
こうした状況に対応するためには、顧客がオンラインでの情報収集を行っている段階で、企業として適切なアプローチをし、競合他社の優位に立つ必要がある。
「以前のマーケティングアプローチは、企業が新サービスの情報などを不特定多数に向けて発信する一方向的なものでした。しかしこれからは、顧客と企業が双方向でやり取りをするマーケティングアプローチが重要になります。そして、そのために必要なのが“顧客データ”の活用です」(里見氏)
BtoB企業が保有する「顧客データ」の40%は活用できる状態ではない
「Sansan」のようなサブスクリプション型のサービスにとって最も重要なのは、「ユーザーに長く使い続けてもらうこと」である。そのためには、既存顧客に対して継続的な支援を行い、ニーズを逃さずアップセル/クロスセルを行っていくことで継続利用を促進し、LTVの向上を目指していくことが重要だ。
「LTVの向上には、営業現場の活動サイクルが重要となってきます。かつての営業現場では、各々の経験という属人的であいまいな根拠で打ち手を実行していたため、なかなか結果が出ない場合もありました。しかし現在では、顧客データを活用することによって、根拠のある打ち手をスピーディーに実行できるようになりました。そのため、顧客データはただ蓄積するだけではなく、活用できるようにきっちりマネジメントしていくことが重要です」(里見氏)
しかし、「Report: Poor Data Quality Impacting B2B Lead Generation」(Integrate調査)によると、BtoB企業が保有する顧客データの40%は、データ重複や一部情報の欠損などによって、活用できる状態ではないという。活用できないデータをクレンジングしようにも、人力でデータメンテナンスを行うには高いコストが発生し、工数も大幅にかかる。また、顧客データは各部門単位で個別最適化されているケースも非常に多い。
Sansanが直面した課題
では、こうした顧客データに関する課題を、企業はどう解決していけばよいのか。「同様の課題を抱えていた」という里見氏は、同社の例を基に次のように解決策を述べる。
「当社は以前、SMB企業をメインターゲットとしていましたが、2017年からエンタープライズ企業への導入拡大も進めていくことになりました。それまでに保有していたリードデータを元に、アプローチすべきターゲットの抽出などを行いたかったものの、データが適切に管理されておらず活用できない状態でした」(里見氏)
同社ではMAやCRMツールを導入していたものの、「部署ごとにデータが個別最適化され統一されていない」「情報が重複している」「情報が古い」「営業が使いたい属性情報を記録していない」「大企業の場合は部署ごとの登録になっている」といった問題が、顧客データの活用を阻害していた。特に多いのが企業名等の表記揺れで、同一企業の情報を適切に関連づける必要もあった。
「SMB領域での拡販を目的にしていたときは、リードデータがそのまま意思決定者につながる可能性が高かったのですが、エンタープライズ領域では、(担当窓口が不明な)リードデータが意思決定者につながるケースはとても低くなります。その企業のあらゆる情報を活用して、包括的にアプローチしていく必要がありました。同じ企業の情報を統合し、法人マスターデータとして活用できるようにしたいと考えていました」(里見氏)
「顧客データHub」機能による顧客データの関連づけ
こうした顧客データ活用における課題は、法人向けクラウド名刺管理サービス「Sansan」に追加するために開発していた、「顧客データHub」という自社の機能によって解決することができたという。
「顧客データHubでは、我々も一番の課題としていた、企業情報の名寄せを実現しました。仕組みとしては、単なるテキストマッチではなく、会社名や住所などいわゆる名刺に記載されている情報を判定元情報として、企業名や人物の同一判定を行います。こうした高度なロジックを搭載しているため、会社名の表記揺れや古い情報でも正しく同一の企業および人物であることが判定できます。我々が実現したかった、同一企業の情報を統合したいというニーズを叶えることができました」(里見氏)
また「顧客データHub」では、国税庁の法人番号、TDB企業コード、登記情報、産業分類などの属性情報も付与できる。これにより、これからアプローチすべき企業を洗い出す際に必要になってくる「属性情報」も紐づけることが可能だ。
同社ではこれらの機能を用い、「過去蓄積データ」と「新規獲得データ」の二つの仕組みを導入した。前者はMAやCRMツール環境に存在するすべてのレコードを「顧客データHub」で識別し、同一判定されたレコードがあれば国税庁から法人番号を取得、同一の法人番号を持つデータ同士を自動で関連づけるというもの。
そして後者は、MAに新規リードが作成されたら、「顧客データHub」で識別し、同一判定された企業があれば国税庁からその法人番号を取得。既存データに同一の法人番号を持つデータがあれば自動で関連づけ、なければ新しく法人を登録し関連づけるというものだ。
顧客データの統合で精度の高いマーケティングを実現
同社は「顧客データHub」をローンチする前に、まずは自社で先行導入を実施。その結果、大きなメリットを得られたという。
「自社で先行導入し、顧客データHubは大きな効果をもたらしてくれると確信できました。それまでは、保有していた人物データのうち、その担当者がどの企業に紐づくのかもわかりませんでした。それらを法人ときちんと紐づけることができ、有用な人物データが3.2倍にも増えました。これによる、ターゲット企業・人物に対するアプローチ対策を立てることができるようになりました」(里見氏)
里見氏は最後に、「これからのデジタルマーケティングは、いかに正確な顧客データを取得し、スピーディーにPDCAを回していけるかが鍵。顧客データマネジメントを人力で行うのは負荷が多いので、これからはテクノロジーの力を借りて、組織的に活用していってほしい」と延べ、セッションを締めた。