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定期誌『MarkeZine』特集

VR/ARが増幅させる体験価値 没入感高める「音声AR」の実例と可能性

VRは仮想の場を作る ARはその場を活かす

――VRとARはセットで語られることが多いですが、そもそもどのように違うのでしょうか。また、選ぶ際の観点などはありますか。

尾崎:どちらも「現実には見えないものや体験できないことを体験してもらう」といった意味合いでは似ていますが、僕らとしてはまったく異なるものだと考えています。

 大きな違いは、視聴態度です。VRは日本語にすると「仮想現実」となるようにどちらかと言えば個人視聴で、ヘッドマウントディスプレイなどの機器とコンテンツがあれば、極論するとイベント会場でも自宅でも同じ体験ができます。イベント会場のほうが、その場の熱気や高揚感を付加できる部分はありますが、仮に友達といても体験は個人的なものです。

 一方でARもスマホなどの端末を利用する点では個人的とも言えますが、その場ありきの仕組みであり、コンテンツと個人が1対1ではなく「1対n」で参加性をともなって体験できる特徴があります。クリエイター視点だと、展示会場や街の中で、その場に存在しているものやシチュエーションを“拡張”する発想で活用できます。

松本:そうした違いに関連して、活用する側の選び方で言うと「その場に来てほしい・その場を活かしたい」場合はARのほうが向いていると思います。一方でVRは、個々人の体験をつなげてバーチャルな場、異世界を作り出すことができます。オンライン上で体験を共有したり、参加性を生み出したりできるので、実際にVRを体験する場所を限定しない、そういう場がないという場合はVRがうまく機能しそうです。

端末に目を奪われない「音声AR」の利点

――では、昨年御社とバスキュールが共同開発した「音声AR」についてお聞きします。VRやARは視覚的な企画という印象が強いのですが、まず、聴覚からアプローチしたのはなぜでしょうか。

松本:目の前にある現実にひと工夫を加えて体験を豊かにする、というARの基本的な考え方は同じですが、従来のように端末を見ながら視覚的に体験を拡張する方法だと、端末に目を奪われる分だけリアルな体験が損なわれているのではないかと感じていました。聴覚にフォーカスして音声で体験を増幅させれば、視覚は100%目の前のすばらしい場や企画に集中できます。

 電通ライブとしても、アナログな場を最大限に作り込むことには大きな強みがあるので、来場者にはその場に十分没頭してもらい、かつ音声で場の価値を上げられる聴覚からのアプローチは差別化になり得ます。そうしたことから、テクノロジーに強いバスキュールと組んで開発を進めました。

尾崎:もう一つ違う観点からの理由としては、音のほうがビジュアルよりも人の感性を揺さぶることもある、という点があります。人間は、受け取っている情報量の8割を視覚から得ていると言われていますが、逆に視覚情報だとイメージが固定され、そこから想像力を働かせたり昔の記憶を思い出したりといったことが起きづらいことがある。これは場合によりますが、あえて体験に余白を作る、個々人に委ねるという意味では、音での情報提供には従来のARとは違う意義があると考えました。

ゲームのBGMや声を活用したFF企画展

――「音声AR」の仕組みを簡単に教えてください。

松本:基本的にユーザーの位置情報を活用した仕組みで、特定の場所にビーコンを設置して、ユーザーが近づいたら特定の音声情報を配信します。

 たとえば、音声ARを最初に実装した、ゲーム「ファイナルファンタジー」(スクウェア・エニックス)の30周年企画展「FINAL FANTASY 30th ANNIVERSARY EXHIBITION−別れの物語展−」では、来場者にヘッドホン付き音声ガイド機器を貸し出して、各展示物の前に立つとその内容にシンクロしたBGMやキャラクターの声などが自動で流れるようにしました。来場者の行動や、プレーしたことのあるタイトルなどによってパーソナライズしたナビゲーション音声も提供しました。

 この企画は、そもそもゲーム自体が音楽や声という来場者の想像力を掻き立てる大きな資産を有していたので、視覚的に“場”を作り込んだ上で音を付加するのにとても相性が良かったと思います。

2018年1月から2月にかけて六本木ヒルズ森タワーにて開催された「FINAL FANTASY 30th ANNIVERSARY EXHIBITION-別れの物語展-」
2018年1月から2月にかけて六本木ヒルズ森タワーにて開催された「FINAL FANTASY 30th ANNIVERSARY EXHIBITION-別れの物語展-」

――なるほど。ユーザーはその世界観に浸りながら、わざわざ画面を見たり操作をしたりといった余計なアクションなしに、音によってより深みのある体験ができたわけですね。

松本:そうですね。おっしゃるように、たとえば美術展でよくある音声ガイドの仕組みを使えば、手動で同じことはできるんです。ここに来たらボタンを押してください、というものですね。でも、それだとどうしても展示空間との関係性が途切れ、没入体験が失われてしまいます。

尾崎:実際、ゲームの内容に合わせて主人公やヒロインの声を効果的に用いた場所では、涙している方もいらっしゃいました。前述の、音が感性を揺さぶることを実感した光景でもありましたね。

 そもそも僕自身がよく美術館に通う中で、どうして自動でガイダンスが流れてこないんだろう、と思っていたんです。美術展の仕事をするようになって、そこには施設の受け入れ態勢やユーザーのリテラシーなどいくつかの課題があるのだとわかってきましたが、この音声ARの仕組みなら、提供側にもユーザーにも負荷が軽く進められます。

 事前アンケートなどを絡めれば、パーソナライズの仕組みも柔軟に実現できます。たとえば観光地での活用を考えると、清水寺を初めて訪れた中国人観光客にだけ、初めての人向けのガイドを中国語で流す、といったことも可能です。

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この記事の著者

高島 知子(タカシマ トモコ)

 フリー編集者・ライター。主にビジネス系で活動(仕事をWEBにまとめています、詳細はこちらから)。関心領域は企業のコミュニケーション活動、個人の働き方など。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

道上 飛翔(編集部)(ミチカミ ツバサ)

1991年生まれ。法政大学社会学部を2014年に卒業後、インターネット専業広告代理店へ入社し営業業務を行う。アドテクノロジーへの知的好奇心から読んでいたMarkeZineをきっかけに、2015年4月に翔泳社へ入社。7月よりMarkeZine編集部にジョインし、下っ端編集者として日々修業した結果、2020年4月より副...

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MarkeZine(マーケジン)
2021/02/26 17:40 https://markezine.jp/article/detail/32226

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