「GYAO!」アプリの好調から事業全体をアプリ中心に
――自社PCサイトなど、他の手段もある中でアプリを選んだのはなぜでしょうか?
芦田:それは、アプリフォーカスというGYAO全体の事業戦略に準じています。アプリフォーカスの理由は、PCのWebブラウザやスマートフォンのWebブラウザと比較した場合、利用頻度や継続率が最も高いのがアプリなんですね。その分エンゲージメントが高いので、現在は全社を挙げてアプリ利用をグロースさせるために戦略を策定し、細かいKPIに分解して組織に振り分けて動いている最中です。
人事も会社の戦略に基づいて動いているので、その流れの中で採用もアプリにフォーカスした前提があります。加えて、この数年で「GYAO!」のテレビCMや「木村さ〜〜ん!」や「木梨の貝。」などのオリジナルコンテンツによって認知度が高まり、学生など若年層のリーチも伸びていること、採用部門が10人も20人もいるような大手企業と同じことをしていては立ち行かないことも、アプリに踏み切った要因ですね。
羽生:一方、今の学生さんの環境を考えても、スマホファーストでしかもアプリに振り切ることは、それほど高いハードルではありませんでした。2017年度採用のアプリは2015年9月にローンチしたのですが、そのきっかけは2016年度の内定者とお昼を食べながら話していて、「学生のスマホ利用がアプリ中心になってきている」という話を聞いたことだったんです。それなら、採用情報も毎日必ず目にする場所にアイコンを置いてもらって提供できたら、エンゲージメントの効果が見込めるのではないか、という気づきがありました。
加えて、スマホなら忙しい就活生がいつでもどこでも情報をチェックできますし、先ほど芦田が申したようにアプリのユーザビリティは総じて高いので、そういった部分を含めてアプリへの一元化が現実的になっていきました。
コンテンツ量を重視内定者の声を受けて改善
――具体的に、どのようなコンテンツを提供されているのですか?既存の採用活動と違うところはどういった点でしょうか。
羽生:募集要項、社員の声、オフィスの様子など、コンテンツの種類としてはそれまでの就職ナビ系サイトと大きな違いはありません。何が違うかというと、そのボリュームです。どうしても、外部のサイトだと決まったフォーマットがあるので、私たちが重視していた「企業と応募者とのマッチングの精度」を高められるだけのコンテンツを用意する必要がありました。
その点を加味して、アプリでは社員インタビューも新卒が配属される各部門をカバーしつつ、職種や年次はまんべんなく、かつオフィスの写真などもふんだんに載せています。インタビューなどは、アプリならではのプッシュ通知で積極的にお知らせしているので、その点はこれまでの採用活動と違う点ですね。また、初年度はコンテンツ掲載だけでしたが、その後の声も踏まえて、2018年度からはマイページ機能を設けてエントリーもアプリに絞りました。
――その後の声、とは?
羽生:実際にアプリを使った採用プロセスを経て入社した、内定者の声ですね。彼らの率直な意見を受けて、次年度に活かしているんです。
――なるほど、まさに顧客の声ですね。
羽生:そうですね。冒頭にも話が上がりましたが、決して採用がゴールではなく、内定を承諾してもらって入社したところがスタート地点。そこから各部門で実際に力を発揮してもらうところまでをフォローするのが人事部門のミッションなので、当社では採用の初期から担当した社員が最初の配属、研修、と約2年にわたって採用と育成をサポートする体制をとっています。
そこで得たフィードバックを、次年度の採用に活かしています。その過程で、新たに当社と接点を持った新卒の内定者には、当社へのロイヤルティを高めてほしいと考えています。実際、早期離職が起きていないのも、この仕組みが寄与しているのではないかと思いますね。
内定辞退者はゼロ採用段階の歩留まり率も向上
――早期離職は起きていないのですね。その点を含めて、数値で把握されている現時点での効果をうかがえますか?
羽生:2017年度の採用からなので、まだ2年半しか経っていませんが、まず内定辞退者はゼロです。一般的には5割程度なので、それだけ当社とマッチする方が最終段階に進んでいただいているのだと捉えています。アプリを使った新卒採用を開始して以来、退職者は発生していません。
就活中でも、エントリー後の説明会参加率は95%程度で、これも一般的な数値と比べて非常に高いと思います。15〜16年度の当社の状況と比較しても、驚異的ですね。

芦田:採用の各プロセスでは、細かいKPIを設けて数値を管理していますが、入り口のエントリー数こそ半減したものの、その後のプロセスはいずれも歩留まりが高いです。毎年、必ず何名を採用するという縛りを設けない状態でその結果なので、狙いどおり、マッチングの精度を高められている表れだと捉えています。
――ただ、入り口をアプリに絞ると、まず知ってもらうのが難しいですし、ダウンロードして実際にエントリーする人数もかなり減ってしまったのでは……?
羽生:そうですね、実際のところエントリー数としては半減しました。ただ、それも織り込み済みです。知ってもらうチャネルとしては、自社サイトの採用ページでアプリに誘導するほか、全国の就活合同イベントや大学単位でのイベントに地道に出展して、認知を促しています。
元々、芦田が申しているように「マッチング精度の向上」が大きな目的だったので、まず入り口の人数が絞られたことで、それまで以上に一人一人と丁寧に接することができるようになりました。アプリに絞って以降、内定までの過程で「10人以上の社員と会ってもらう」ことを一定の目安にしているのですが、それもある程度入り口が絞られたからできたことです。