DMP構築に注力してジャーニーを精緻に
――基本的にメディアプランニングは、ジャーニーありきでゼロベースから考えているのでしょうか。「マス:デジタル」の割合が決まっていたり、過去のプランを踏襲したりするようなこともありますか。
各ブランドのターゲットユーザーが大きく変わることがあまりないので、継続している商品に関しては、「昨年は認知から興味関心まで人を動かすことができたから、今年は購買ファネルに注力していこう」と昨年の結果をもとに組み立てます。新製品が出るとなった場合は、ゼロベースで考えますね。
社会的環境の変化など外的要因によっても人の心は変わってくるので、そうしたインサイトを捉えるために、DMPの高度化に時間とコストをかけて注力しています。``――コミュニケーションをプランニングする上でもDMP上のデータを活用しているということでしょうか。
DMPがベースとなって、インサイトもジャーニーも導き出されます。ただそれでマーケティングストーリーが出てくるわけではないので、いろいろなデータを読み取りながら、マーケターたちが集まって喧々諤々やりながら考えているわけです。
――御社の場合、どういうデータをDMPに貯めていっているのでしょうか。
コーポレートやブランドサイト、生活情報メディア「Lidea(リディア)」などのオウンドメディア上の人の動きは全部蓄積しています。外部からデータの購入もしていて、アンケートサイトのデータや外部サイトでの行動データ、各種ECや家計簿アプリなどから購買データも購入しています。
これでユーザーのカスタマージャーニーが100%暴けるとは思っていませんし、足りない部分は想像で補完していますが、ファーストパーティーデータだけでなく、セカンドパーティーデータ、サードパーティーデータも見るようにはしています。
IMCのキーワードとなるのは「組織の編成」と「権限の譲渡」
――統合マーケティングやIMC(統合マーケティングコミュニケーションの略)という言葉は昔から流通しているにもかかわらず、それが空想にとどまっている企業も多いかと思います。少しでも統合したコミュニケーションに近づけていくためには、何が必要だと思いますか。
重要なのは、「組織の編成」と「権限の譲渡」だと思っています。前職でIMCを推進する企業のデジタルマーケティングを支援していて、そこでIMCの基礎やIMCが上手くいっている企業のノウハウを学ぶことができました。その中で感じたのが、IMCが上手くいっている企業はマス・デジタルを横断して見ている組織が存在しています。でも、日本企業の多くはこういった組織体制になっていないケースがほとんどです。各ブランドの事業部はマスを見ているけど、デジタルは専門部署がやっているパターンが多いのではないでしょうか。
ライオンでは、私が室長を務めるCXプランニング室でマス・デジタルの両方をプランニングして、宣伝予算も一括して預かっています。統合マーケティング、IMCを推進する上では、こうした組織を持つことが重要です。ブランド事業部の中にそういった機能があってもいいと思います。一気通貫で見られる人たちがいて、権限を持てる部署が出てこないと、結局マスとデジタルのコミュニケーションは分断され、効率的な統合マーケティングの設計ができていないのではと思っています。
――デジタル出身の方からすると、オフラインのコミュニケーションに疎かったりするかと思うのですが、知らない媒体のことをキャッチアップしてそれを活かせるようにするために、必要なことはなんだと思いますか。

突き放すような言い方ですが、私は本人のやる気だけだと思っています。学びたいと強い思いがある人たちは、出自がデジタルでもマスのことを習得していますから。それに、先ほどお話ししたようにマスとデジタル両方の知見を持ち、教育できる人材は少ないので、本人が自らの意思で情報を取っていく姿勢が必要なのだと思います。
逆を言えば、今デジタルの人が本流のマーケティングに参入するチャンスはごろごろ転がっているわけです。私自身もそれまでのキャリアでは、マーケティングを体系的に学ぶことはありませんでした。ですが、デジタルの効率化を進めるところから体験価値を創造するようになり、現在アウトプットはデジタルだけでなく、人を動かすためすべての媒体にアンテナを張ってコミュニケーション設計をするまでになりました。
たとえば今アドテクの効率化をやっているような人たちも、自分の仕事はなんのためにやっているのか、別の方法で成果を達成する方法がないかを考えてみるなど、もっと広い視野で考えたほうがいい。人を動かすために運用しているわけで、であればどうするべきなのかを考えていくことで道は開けるはず。デジタル出身の人たちがマーケティングの中心になってくると嬉しいです。
――最後に、今後より良いコミュニケーションをしていくためにどうしていくか、展望について教えてください。
ライオンでは、コミュニケーションの最適化において、インサイトを読み取ること、ジャーニーを描き切ること、実践したコミュニケーションを検証して次に活かすことが大事だと考えていて、どれもDMPを活用して実現していこうとしているところです。ただし、まだまだ精度は粗くて、ジャーニーで人の100%を描けているわけではありません。今はデジタル上での動きしか見ていないので、今後はもっとリアルのデータを取り込む必要があると考えています。
展望としては、引き続きデータを良い形で活用したマーケティングをしていきたい。ただし、すべてデータに振り切るのではなく、人の声も引き続き聞きながらバランスを取ってやっていく。今はコミュニケーションという領域でデータを活用していますけど、将来的には研究開発や生産のところなど、会社のいろいろな部門においてデータを活用できるよう広げていくのも我々の仕事だと思っているので、そうしたことにもあわせて取り組んでいきたいです。