ベネフィットを様々な粒度で整理する
――最初はデジタル広告過多だったところから、現在はマス広告を含めた統合が進んでいると思いますが、全体のプランニングをする際にはどのようなことを意識していますか。
理想は、広告を通じてベネフィットが伝わった結果、目標CPIを達成することです。メディアごとにバラバラに動いてしまい、ベネフィットが伝わっていないのに数字が改善してる時は注意が必要です。プロダクトの魅力を正確に捉えていれば、自ずと最適なメディアプランニングは見えてきます。
――では、クリエイティブを作る際はベネフィットを中心に制作しているんでしょうか。
その通りです。一見すると同じ漫才のクリエイティブでも「クーポン掲載企業数が多い」「クーポン画像が大きくて見やすい」「半額のクーポンがある」など異なるベネフィットで制作・評価しています。伝えたい要素によって、メディアとの親和性も異なるので、それぞれの視聴態度、視聴属性を参考にしながら検証しています。
――今、クーポンチャンネルを例にいくつかベネフィットを出していただきましたが、機能別にベネフィットを洗い出しているんですか。
各機能のベネフィットを様々な粒度で出すようにしています。ベネフィットは樹形図のようなツリー状で整理していて、優先度や関連性を考慮しながら洗い出しています。メディアに振り分ける際には、マスなら広く一般的なベネフィット、デジタルならもっと具体的で詳細なベネフィットなどと、当てはめていきます。
――ベネフィットの粒度もメディア選定の重要な要素なんですね。
そうですね。各ベネフィットの正当性はコンセプトテストやグループインタビューで検証しています。ユーザーを理解しないと仮説が適切かわかりませんし、そのベネフィットは新規ユーザーを拡大するものでなければなりません。
 
 ベネフィットを整理する樹形図のイメージ(タップで拡大)
放映しているすべてのCMを自分で見る
――先ほど、広告枠それぞれの特徴を言語化するというお話がありましたが、具体的にはどのように行っているのでしょうか。
私にとっても初めての挑戦だったので、出稿したテレビCMを目視ですべてチェックしました。
――全部ですか。出稿後のデータを見るだけではなく、実際に自分でもテレビCMを体験したのはなぜでしょうか。
テレビCMは大きく分けると番組前、中、後で放映されているわけですが、アニメの後に音楽番組がある場合と、音楽番組の後にドラマがある場合で視聴態度も変わると思っています。そのため出稿したテレビCMを実際に視聴して、そもそもアプリをダウンロードするモチベーションにあるのかを想像したかったんです。
その他にも、自分が見た他社のテレビCMやデジタル広告で気になったものは常に社内に共有するようにしています。
――自社だけでなくて、他社の広告もチェックすることで、自分がプランニングするときもより自信を持てるんですね。
たとえば、ニュースアプリだからニュース番組と相性が良いと考えても、それが報道番組なのか、ワイドショーなのかでも視聴属性が全然違います。スマートニュースが提案するベネフィットを正しく届けられるかどうかが肝心です。そのルールを自社の広告だけでなく、世に流れているすべての広告に当てはめて正しく伝わっているかを常日頃考えています。
――統合マーケティングを進めたいと考えている企業、進めているけど課題を感じている企業にアドバイスできることはありますか。

統合マーケティングは、マスとデジタルの配信最適化を行い、無駄を減らすというケースで語られることが多いと思いますが、それによって得られる成果は限定的だと思っています。
スマートニュースがゼロからのスタートだったこともあり、模索し続けるしかなかった。そのため、様々な媒体に出稿してその影響を検証して、ダウンロードとの関連性を数値化して、それはなぜかを定性、定量でクリアにしていきました。
ベネフィットがきちんと明確になっていれば、PDCAを回していく中でメディアプランやクリエイティブの正解は見えてきます。そのためスマートニュースでは、クーポンチャンネルや都道府県チャンネル、ポケモンGOチャンネル、日向坂46チャンネルなど、機能ごとにメディアプランが全く違います。
――御社で言えば、チャンネルや機能がブランドになっていて、それぞれに合った統合のルールを考えているんですね。
その通りです。そして、新たに作る機能やチャンネルも、まだスマートニュースを知らない、使ったことがない人にアプローチするために作っています。そのため、スマートニュースのマーケターの仕事は、新たな需要を作ることだと考えています。
――やはり、ベネフィットを明確にすることが一番重要ということでしょうか。
私は統合マーケティングを、メディアの統合ではなくユーザーとベネフィットの統合であると考えています。その先にメディアがあることが重要ではないでしょうか。必ずテレビCMを打たなければいけないわけではないし、デジタル広告もやるべきとは限らない。
プロダクトを徹底的に理解しないまま、メディアプランニングやクリエイティブを最適化しようとしても、思ったような成果は得られません。たとえば、バナーのA/Bテストを繰り返して、CTRが10%上がっても、結局その影響度はブランド投資全体で見れば微々たるものにしか過ぎません。それよりも、お客様に提供できる価値と向き合い続けるべきです。
おもしろいだけの広告にしない
――では、最後に今後の展望について教えてください。
これまで行ってきた統合マーケティングを振り返ると意外とシンプルで、いい機能を作りそれを必要だと思っていただけそうな方に届けるだけなんです。これって昔からマーケティングで行われてきたことですよね。とにかくそれを徹底的に取り組み続けたいのが今後の目標です。
企業によっては、広告を広告している風潮があるのですが、スマートニュースではベネフィットを広告にしていきたいと思っています。
――「広告を広告する」とはどういうことでしょうか。
広告がコンテンツとしてはおもしろいんだけど、その後に商品の良さの認知・理解につながらない広告ですね。起用タレントや企画、台本などの広告そのもののおもしろさがベネフィットよりも前に出てしまうのではなく、商品を使いたくなる広告活動に引き続き取り組みたいと思います。
――御社で言えば広告を通じてダウンロードにつながって、商品のことを理解してもらえる広告である必要があるってことですね。
そのためのCPIによる共通評価です。おもしろくても新規ダウンロードが伸びないと投資として成立していないので。一方で、ベネフィットを立てる表現であればどこまでも振り切りたい。そこはクリエイターとの信頼関係で成り立っています。主語が商品から広告に変わらないよう、今後も統合マーケティングに取り組みたいと思います。

 
                    
                     
                    
                     
                    
                     
                    
                     
                    
                     
                    
                     
                                
                                 
                                
                                 
                                
                                 
                                
                                 
                                
                                 
                                
                                 
                                
                                 
                                
                                 
                                
                                 
                                
                                 
                                
                                 
                                
                                 
                                
                                 
                                
                                 
                                
                                 
                                
                                 
                                    
                                     
                                    
                                     
                                    
                                     
                                    
                                     
                                    
                                     
                                    
                                     
                                
                                 
                                
                                 
              
            