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「顧客にふさわしい場を追求する」 データと感性を行き来する一休の躍進

社内に浸透する「ユーザーファースト」の姿勢

――過去の榊さんの記事でも、「順番を間違えてはいけない」と語られていたのが印象的でした。まず顧客のほうを向いて顧客に喜ばれれば、クライアントである施設の満足度も上がるし、社員の成長もついてくると。

 そうですね、その順番は常に意識していますし、皆にも常に「ユーザーファースト」だと話しています。過去には僕も、ちょっと業績が悪いなと思ったら短期的に売上が上がるような策を必死に考えることもありましたが、今は胸に手を当てて「それは本当にユーザーの役に立つのか」と立ち止まるようにしています。後ろめたいことがあったら、その策は選びません。ここはドラスティックにやらないと効果を発揮しないので、社内には「ユーザー以外はすべて捨ててもいい」くらいに話すこともありますし、皆にもその意識が浸透していると思います。

 顧客が誰か、というのはどんなビジネスにおいても大きな命題です。消費財メーカーなどだとシンプルですが、たとえば医療機器メーカーの場合、彼らが販売する機器を使う医師を顧客と思うのか、それともそれが使用される患者さんを顧客と思うのか。この場合、僕だったらやはり患者さんを最終顧客と捉えるでしょう。最終的に、誰の喜びや幸せを見つめて仕事をするのかが、常に問われると思います。

一休をいちばんお勧めしたい人は誰か?

――「一休.com」といえば、高級志向の選択肢をそろえたサービスという印象が強いのですが、様々なユーザーの中でもやはり富裕層をロイヤル顧客と捉えてフォーカスされているのですか?

 そうですね、ここまでの話では一休を利用される方、あまり利用しなくても頻繁に見に来てくださる方、すべての方をユーザーと定義しました。そして、どのユーザーも施設や社員よりも優先されるべきだという意味で「ユーザーファースト」という言葉を使いました。

 その一歩先のターゲット顧客としては、当社では年間一定額以上を利用される方をロイヤル顧客と捉えています。低迷期にデータ分析や顧客ヒアリングを重ねたところ、年間100万円以上「一休.com」を通して宿泊する顧客層は、何も特別な施策をしていないのに伸びていました。つまり、一休は高頻度に高価格の宿に宿泊されて年間100万円以上のご利用があるような方々に愛されていたのです。当時、なぜなのか理由を考えました。顧客にも聞きました。

 行き着いた結論は、高価格の宿を探している顧客にとって低価格の宿が検索結果に並ぶことはストレスだということです。一休は高級にフォーカスしているので、高価格の宿を探している顧客にとって一休はストレスが少なかったんです。そこで、この方々に喜ばれる宿を増やすことに注力していきました。

 一休は高級ホテル・旅館の予約サイトだ、と言われますし、僕も取材では話の流れ上そのように言うことはありますが、実は僕らはサイト内のどこにも「高級な宿を紹介しています」と記載していません。宿泊金額の基準もありません。ただ「こころに贅沢させよう」というコンセプトに基づいて、お客様が非日常を楽しめる施設を紹介し続けてきました。

 結果的に、そんな宿を求める方にはすごく検索しやすい、自信をもってお勧めできるサイトになっていった。それが強みだとわかって、その方々向けにフォーカスしていったことが、急成長に結び付いたのだと思います。

――自社サービスを自信を持ってお勧めできる人が、ロイヤル顧客だというのは、腑に落ちます。

 逆に言うと、別にこころに贅沢させる目的でもない、安く泊まりたいという方に「一休いいですよ」とは、僕は説得できません。他社さんのサービスを使ったほうがいいと思う。そちらのほうが幸せだと思われる方に、自社を勧められないですからね。

肩書きで従わせない 自律的な組織の在り方

――たしかに改めて拝見すると「高級」という文言は一切サイトに記載されていないですね。

 はい。個人的には、高級よりも上質という言葉のほうがそぐうなと思っていますね。上質とも謳っていませんが、いずれにしてもお客様は何も高額を支払うことが目的ではないので、そこをまちがえないように、お客様の要望にふさわしい場にしたいと思っています。

 むしろ僕らは、「高級な宿を売ります」ということを言わずに支持されたい。言わずに感じてもらえるほうが、嬉しいですね。高価格だ、高いから良いんですと訴えるのって、かっこ悪くないですか(笑)?

――なんとなくわかります(笑)。たとえばサイトのクリエイティブも、写真が徐々に表示されたり、切り替わりもゆっくりだったりと、テキスト以外の伝え方も徹底されているなと感じます。

 クリエイティブにもこだわっていますね。社内の複数の卓越したデザイナーが細部にまで配慮しています。ただ、クリエイティブは言語化したルールで縛るのは難しいので、宿泊事業で一人、それからレストラン事業で一人、サイトデザインの権限の一切を任せています。その人がいいと言えばいい、ダメと言ったらダメ。

――それは、デザイン部の部長やチーフといった役割の方ですか?

 いえ、役職ではないんです。一般社員で、その人が全権を持ちます。……と言ってもあまり想像がつかないですよね、すごく珍しい組織形態だと思います。

 要は、肩書きを持って、権威でリードしてほしくないんです。部長だから従うんじゃない、正しいから従うんです。肩書きと権限がセットになっている職種もありますよ。たとえば営業はチームで仕事をするので肩書きと権限がセットですが、顧客向けサイトのディレクター、デザイナーなどに役職は特にないですね。

 これもよく社内で話しているのですが、「誰が言ったか」はあまり大事じゃない、「何を言ったか」がとても大事です。正しいことを言った人が正しい。現状、デザインの権限をそれぞれ担う2人のセンスと判断を、皆が自然に「正しい」「一休らしくなる」と思うので、任せているのです。

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この記事の著者

高島 知子(タカシマ トモコ)

 フリー編集者・ライター。主にビジネス系で活動(仕事をWEBにまとめています、詳細はこちらから)。関心領域は企業のコミュニケーション活動、個人の働き方など。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

安成 蓉子(編集部)(ヤスナリ ヨウコ)

MarkeZine編集部 編集長
1985年山口県生まれ。慶應義塾大学文学部卒業。専門商社で営業を経験し、2012年株式会社翔泳社に入社。マーケティング専門メディア『MarkeZine』の編集・企画・運営に携わる。2016年、雑誌『MarkeZine』を創刊し、サブスクリプション事業を開始。編集業務と並行して、デジタル時代に適した出版社・ウェブメディアの新ビジネスモデル構築に取り組んでいる。2019年4月、編集長就任。プライベートでは2児の母。

★編集...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2020/01/24 13:00 https://markezine.jp/article/detail/32768

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