「ROIは?」という問いにどう答えるか
――なるほど。ただ、いまだ新規獲得偏重が強い日本企業でロイヤル顧客へのフォーカスを強調すると、経営陣にはROIを追求されたりすることもあると思います。実際、そうした質問も受けられるのではと思いますが、どう答えられていますか?
白井:いい質問ですね、確かに必ず「ROIは?」と聞かれます。ただ、何をもって費用対効果を計るのか、開封率なのかCTRなのか、といった話は我々からはしません。そもそも、よく言われる「20%のロイヤル顧客が80%の売上利益を生んでいる」ことを、どの企業も感じてはいます。なのでロイヤルティ向上にしっかり取り組めば、効果が出ないわけはないという切り口で話をしています。
加えてたまに誤解があるのは、「顧客がみずから提供してくれる“ゼロパーティデータ”を取得する」というと、「それで新規顧客がどのくらい増えるか」と聞かれたりします。確かにメールアドレスを聞ければリーチは増えますが、そういう考え方ではないんですね。新規獲得ではなく、ロイヤル化、そしてロイヤル顧客のエンゲージメント向上が目指すところなので、見ている指標が違う……という部分からご理解いただくよう説明しています。

加藤:資料ではわかりやすくきれいなファネル状にしていますが、本当はまったくこんな形にはならないですよね。たった2%の顧客が50%の売上を支えていたり、離反が50%以上だったり。その事実を目の当たりにすると、2%のロイヤル顧客が3%になるだけで、大きなビジネスインパクトになることは明白です。なので、ツールのROIという考え方自体を改めて、ビジネス全体の設計と投資戦略の話だと考えを転換していただくことが大事だと思っています。
カンフル剤ではなく健康なマーケティングを志向する
――顧客分析の定石としてはRFM分析がありますが、これだと量的な構造を踏まえた分析や、ロイヤル顧客からわかる知見をより遠い顧客に適用するといった考え方は生まれないですね。
白井:そうですね。コトラー教授の『マーケティング4.0』では、現代の消費者プロセスとして「5A理論」【認知(Aware)→訴求(Appeal)→調査(Ask)→行動(Act)→奨励(Advocate)】が提唱されていますが、この最後のAdvocate、愛着化したり拡散したりという部分が今のマーケティング業界では抜け落ちていますね。我々のフレームワークでは、ここも含めてすべてカバーしています。

――最後にうかがいます。リターゲティング施策が難しくなると、そこの投下していた予算をどこに振り分ければ今と同じKPIを達成できるか、と悩むマーケターが増えていますし、まだ課題感が薄い人にとっても環境が変わることは明らかです。御社が提唱するゼロパーティデータ活用とロイヤルティマーケティングが広がると、こうした悩みはどう解決されていきますか?
加藤:2つ、答えがあります。ひとつは先ほど白井が話した、Advocateの醸成が新規獲得にも有効なメッセージを出せる源泉になるので、それが可能な環境が広がることで解決されます。
もうひとつは、これまでのリターゲティングは結局“面”を取る話なので、それで本当にロイヤル顧客が獲得できていたのか? と立ち返ると、リタ―ゲティングが不可になっても本質的には損害ではないはずだという答えです。カンフル剤で一時的に元気になるのではなく、正しい食生活で健康を追い求める、そんなマーケティングの実現を支援していきたいと思います。
白井:そもそも、Cookieデータは広告のために作られたものではないですから。アドテクが進んで、リタ―ゲティングに使われるようになっただけなので、それが是正されるだけだと私も思っています。
今回、チーターデジタルの思想を打ち出し、これから日本でしっかり展開していくことで、無駄に投網を打つようなことが減り、LTVとロイヤルティ向上に適切に投資できる世界を作っていきたいですね。