多忙なエグゼクティブ層との接触にも
紙が与える印象は、受け手の年代だけでなく、ロイヤルティによっても変わる。前述の産学協同実験では、同じ情報を紙のDMで受け取ったグループとEメールで受け取ったグループに分け、ロイヤルティ別に「特別感」「企業側の好意」「企業側の気遣い」についても反応を測った。
ロイヤルティの低い顧客は、反応に大きな違いは見られなかったが、ロイヤルティの高い顧客は、メールを受け取った場合のみ反応が極端に下がっている。日頃、顧客のロイヤルティも材料の1つとして分析・施策立案を行っている堀内氏は、自社の取り組みを次のように語った。
「ロイヤルティが高く多忙なエグゼクティブ層にはダイジェスト版の冊子を送付して、コミュニケーションを図ってきました。紙は存在感があるので目に入れていただけるという期待をもっていましたが、それに加えてこのような実験結果が出たことは、私たちにとって大変意義深く感じられます」(堀内氏)
特性を生かしたシナリオ作りが重要
Eメールは紙に比べて配信コストが低く効率も良い手段だが、受け手の年代やロイヤルティによっては、かえって紙の方が高いコストパフォーマンスを発揮する場合もある。不特定多数の見込み客に対してはEメールでアプローチし、受け手のロイヤルティが高まった段階でおもてなし感の出る紙を用いるなど、それぞれの特性を活かしたシナリオ作りが重要だと全員の意見が一致した。
「リアルタイムのパーソナライズはデジタルの得意分野ですが、紙は記憶に残りやすい上、保存性が高いので、期間を空けて連絡しても反応が返ってきやすいという長所を持っています」(堀内氏)
「最近は紙のDMのデータ活用が急速に進んでいます。オンラインでフラグが立った人にオンデマンド印刷で紙のDMを送付するなど、これまではデジタルでしかできなかったようなパーソナライズやリアルタイム性も実現できるようになってきました」(椎名氏)
学習院大学&土屋鞄の“優しいメッセージ”に学ぶ
大木氏は「デジタルマーケターこそ紙の価値への理解を深める必要がある」と強調した上で、全日本DM大賞の受賞作品を例に挙げ、デジタル×アナログの組み合わせの最前線を紹介した。
まずは、2017年のDM大賞で銀賞を受賞した学習院大学の事例。受験勉強が山場を迎えるクリスマスシーズン、同大学は受験生に向け激励のメッセージを添えてクリスマスカードを送付した。
受け取った受験生たちはDMの写真とともに、「こんな手紙が届いた」とSNSに投稿。「元気づけられた」といったメッセージとともに拡散され、結果、翌年の同大学志願者数は前年比152%と過去10年で最多の志願者数に伸長した。
この取り組みに対し、堀内氏は「学習院大学を受験しない人にとっても優しいメッセージで、誰も嫌な気持ちにならないという点が重要なポイント」とコメントした。
「優しいメッセージ」を起点にした事例として、2019年度のDM大賞を受賞した土屋鞄製造所の取り組みも紹介された。同社は小学生向けのランドセルを購入した顧客に対し、学年末を迎えるタイミングで「最初の1年、よく頑張りましたね」というメッセージを添えたDMを発送。ランドセルの購買という1回の出来事で終わらせず、顧客、つまり保護者とのリレーションを構築することがこのDMの目的だ。学習院大学の事例と同様にSNSでも拡散され、ブランドイメージの向上にも貢献した。
学習院大学と土屋鞄製造所の取り組みはいずれもBtoC向けに、アナログの施策をデジタルでの拡散につなげた好事例だが、BtoBでのコミュニケーションでも取り入れられるエッセンスはあるのだろうか。BtoB向けのビジネスを行っている堀内氏は、「デジタルの会社が紙を使っている」というギャップを狙って施策を打つことがあると述べ、次のようにアドバイスした。
「トレジャーデータという会社を覚えてもらうだけでなく、この会社がちゃんとデジタルをやる会社だということをわかってもらうことが必要です。そのためには、アナログの先にあるデジタルコンテンツをリッチ化しておくことが大事だと思います」(堀内氏)