音楽に強いクリエイティブ組織を
MarkeZine編集部(以下、MZ):今回はADKクリエイティブ・ワンが立ち上げた「ADK Wonder Records(以下、AWR)」について、ADKクリエイティブ・ワンの代表取締役社長である森永賢治さん、そしてAWRのメンバーで作詞・作曲家としても活動している市川喜康さん(SMAP「オレンジ」などを手掛けた)とマシコタツロウさん(一青窈「ハナミズキ」などを手掛けた)にお聞きします。
まず、AWR設立の背景から教えてください。
森永:広告・マーケティング業界が激しく変化する中で、我々は「ブティック・サテライト構想」を描いています。ブティックとは、クリエイティブをテーマにした個性的な小ユニットで、新しいチャレンジをしやすい環境を作る目的のもと生まれました。AWRも、この構想から誕生しました。
MZ:御社にはFACTやCHERRYなど、様々なブティックがありますが、その中の1つということですね。
森永:ブティックも現在は社外と社内の2つに分かれています。社外ブティックはADKクリエイティブ・ワンの子会社として収益化を担っており、FACTやCHERRY、navyがそれに該当します。
一方、AWRは社内ブティックで、近々の利益を率先して狙うのではなく、個性やコンセプトを重視し将来的な利益を生むための投資の一環として立ち上げています。AWR以外だとMR(Mixed Reality)やプロジェクションマッピング関連のテクノロジーに強いaddictや、キャラクター・コンテンツのコミュニケーション価値を拡張するCharats(キャラッツ)が社内ブティックとして存在しています。
テレビCMやイベントなど、広告やマーケティング施策において、音楽は欠かせない存在です。そこに非常に大きなチャンスを感じたため、市川やマシコにAWRの立ち上げを任せました。
音楽が脇役という常識をぶち壊したい
MZ:市川さんがAWR立ち上げの発起人と聞いているのですが、市川さんはなぜAWRを立ち上げたいと思ったのでしょうか。
市川:私は元々2014年にADKに入社し、約6年間コピーライターやCMプランナーの経験を経てクリエイティブディレクターになりました。そして、実は入社当時からAWRのような組織を立ち上げたいとずっと思っていました。
というのも、広告において音楽は脇役として扱われているケースが多かったからです。たとえば、アートディレクターはいてもサウンドディレクターという職種はありません。また、コンテの発注は最初にするのに、音楽の発注は後回し。音楽はおまけのような存在でした。
MZ:脇役とされていた音楽を上手く活用して、広告クリエイティブの制作に取り組みたいと思ったわけですね。
市川:私はたくさんの曲を作ってくる中で、音楽には特別な力があることを感じていました。以前SMAPの「Triangle」を手掛けた後、特別支援学級の生徒から手紙をもらいました。その子は文章を理解するのが苦手であるにもかかわらず、この曲を聞いて歌詞の世界観を考察してくれたのです。文字や物語に壁を感じても、音楽が取っ払ってくれるのだと感じた出来事でした。
この他にも、音楽を聴くと風景や感情、においがよみがえることがありますよね? 良い音楽は感情に寄り添える力や浸透力、波及力、そして中毒性があります。この音楽ならではの強みを生かしたコミュニケーションを作るべく、マシコに声を掛けてAWRの立ち上げに至りました。
MZ:マシコさんはなぜAWRに加入されたのですか。
マシコ:CDが売れないと言われる中で、作曲家もこれまで通りに曲を作っているだけでは厳しいと考えていたからです。その中で市川からAWRの話をもらい、通常の楽曲制作だけでなく広告制作にも取り組むとのことだったので、自分が役に立てて、自身のスキルアップにもつながると思い、 AWRに加入することを決めました。
MZ:では、AWRがどういったクリエイティブを企画・制作しているのか教えてください。