デジタル投資、顧客体験、物流……急激なEC化で見えた課題
次に話題に上がったのが、ECへの急激な移行で顕在化している様々な問題について。小橋氏は、物流が非常に疲弊しており、本来届くものが届けられなくなっている状況に危機感を抱いている。一方で「コロナ前から物流を整備していた企業は対応ができている」と、米国・ウォルマートの例を紹介した。
「ウォルマートはAmazonの取り扱い品数が増え、物流網に負担がかかり始めていた頃から、ECサイトで注文して店舗で受け取る“Buy Online, Pick Up In store”と呼ばれる形態を整えていました。店舗網をうまく作った物流という戦略が、このタイミングで当たったのでしょう」(小橋氏)
ECの受注が増加したことにより、納期や品ぞろえの面で顧客の期待に応え切れなくなっている企業もある。深刻なのは、納期の連絡がメールで行き届いていなかったり、在庫確保の状況をサイト上で正しく伝えられなかったりすることで、コールセンターへの問い合わせが急増していることだ。
「本来のオムニチャネルはコールセンターもネットも活用し、シームレスな顧客体験が提供できること。ネットで対応できること、ヒューマンタッチの価値が必要なことを分けて対応していくべきですが、そうなっていないのが現状です。店舗の閉鎖で落ち込んだ売り上げをECで稼ごうと、コールセンターをフル稼働させ、その結果現場にしわ寄せがきていると感じます」(渡部氏)
対策の鍵は「ロイヤルティ、待たずに買える、自宅の○○化」
ではこの状況下で小売企業が行うべき対策とは。登壇者が提示したアイデアの一部を紹介する。
1. ロイヤルティの重要性を再認識する
ECの売り上げ伸び率は、顧客ロイヤルティによっても生まれている。「コロナ前から顧客ロイヤルティが高かったブランドは、手段を変えても顧客とつながることができています」(林氏)
日頃のロイヤルティ構築が明暗を分けたという意見も。コールセンターやチャットでの対応など、サポートがきちんと受けられる体験を届けてきたブランドは、店舗閉鎖の影響を受けにくかった。
2. “待たずに買える”を実現する仕組み構築
登壇者たちが注目しているのは、ドライブスルーの有効活用だ。日本でも、飲食店を中心にドライブスルーの需要が大幅に増えている。
「東京にいるとイメージできないですが、地方だと車通勤は当たり前。生活者側に『届くのを待たずに、取りに行けば良いよね。接触時間を短くできるし便利だね』という認識が広まっていくのではないでしょうか」(逸見氏)
3. 高関与品は顧客体験の設計を見直す
日用品などのいわゆる“低関与品”は、購買ストレスを減らすことが顧客体験の向上につながるため、コロナ後もあるべき姿は大きく変わらない。一方、購買そのものを楽しむ性質がある“高関与品”は、ソーシャルディスタンスの考え方が入ることにより、これまで通りの設計で良質な体験を届けることが難しくなるかもしれない。
「状況が落ち着いて店頭にお客さんが戻ってきたらそれで良いと考えるのではなく、いろいろな理由で来られなくなったときのために、デジタル・アナログのつながりをどう作るかが鍵になりそう」(逸見氏)
4. 自宅の〇〇化に対応する
外出自粛によるライフスタイルの変化で、自宅が多目的化している。大西氏は「急に自宅が○○化する、というのが巣ごもり消費の実態」とみている。
「ヨガマットやダンベルを買って自宅をジム化する、高級レストランの料理をテイクアウトして自宅をレストラン化するといった行動が、それを示しています。このような動きに対し、企業はモノを売るという姿勢ではなく、デジタルとリアルを駆使して、自宅の○○化をどのようにお手伝いできるのか、という発想で臨むことが求められていると思います」(大西氏)
5. デジタルとリアルを融合し、UXに本腰を入れる
植野氏は「今はまだデジタルだ、リアルだ、と言っていますが、電気のある暮らし、電気のない暮らしと言わなくなったように、10年後にはデジタルなんて言葉もなくなっているかもしれません。状況が刻々と変わっていく中で、あらゆるチャネルを使って最適な手段を考える、これができる企業が勝ち残るでしょう」と述べた。