2017年に選手からフェンシング協会会長へ
――太田さんは2017年8月に日本フェンシング協会の会長に就任されてから、様々な改革に取り組まれてきたと伺っています。会長就任時、日本フェンシング界にはどのような課題があったのでしょうか?
太田:会長に就任した2017年は、オリンピック・パラリンピックを3年後に控え、日本フェンシング界としても機運が高まっていた時期でした。しかし、選手自体は若手で強い選手が出てきている一方で、大会を開催してもまったく観客が集まらず、フェンシングの魅力を十分に伝えられていないのではないかという危機感がありました。
太田:会長就任時にはまず、上手くいっている競技団体と上手くいってない競技団体を見比べてみたり、競技団体だけでなく、成長企業を調べたりと情報収集から行っていきました。その中で、勢いのある団体・企業には「強い理念」があることに気がつきました。
では、フェンシング協会の理念はなんだろう? と思い協会の公式サイトを見たところ、当時は理念が書かれていなかったんです。「日本で唯一のフェンシングを統括する団体です」など、役割のようなものは書かれていたのですが、通常の会社だったら当たり前にある“企業理念”というようなものが、フェンシング協会には当時なかったんですね。
そこで、まずは「自分たちが目指すべきところはどこか」「フェンシングを通して何がしたいのか」「自分たちが持っている価値は何か」、そういったものを明確にするところからスタートしました。
フェンシングを取り巻く人々に「感動体験」を提供したい
――そうした背景から「突け、心を。」という理念が生まれたのですね。公式サイトでは、「フェンシングの先を、感動の先を生む。」というビジョンとともに掲げられていますが、この理念を達成するために、どのようなことに取り組まれてきたのでしょうか?
太田:この理念は、フェンシングを取り巻くすべての人々に感動体験を提供し、フェンシングと関わることに誇りを持つ選手を輩出し続けていくことを目指した言葉です。
太田:感動体験を届けるために足りないと思ったのが、先程もお伝えした「観客数」です。そこで、まず「大会会場を満員にする」という目標を掲げました。この目標を伝えた時、選手含め、多くの関係者から「無理だ」と言われました。様々な取り組みを経て、現在は、実際にチケットが売れるようになってきているのですが、2017年当時は観客がほぼゼロだったので、無謀なことに聞こえたのだと思います。
――観客がいなかったというのは、意外です。
太田:もちろんオリンピックの時などは人が集まるのですが、たとえば全日本選手権を東京で開催しても、望んでいないのに無観客試合になっていたんです。
そこで、「なぜお客様が来てくれないのか?」を追求し、見えてきた問題を解決するために大会の運営や、選手のあり方を変えていきました。その結果、2017年の全日本選手権では、観客数1,500名超えを達成することができました。