コーポレートのパーパスに立ち返り、改革していく
では、こうした幻想を叩き壊した上で、改めて企業のDX推進に必要な要素を考えてみます。
DXとはデジタルと言うよりむしろトランスフォームが本質であり、自己を否定・破壊してでも生まれ変わる覚悟がまず必要だと述べました。既存のビジネスモデルや組織構造を捨てる局面も当然発生しますし、社長をはじめ経営層コーポレートのパーパスに立ち返り、改革していくの交代もひょっとするとあり得るわけです。
たとえばNetflixは元々アナログなレンタルDVD郵送サービスでしたが、動画配信サービスを開始して軌道に乗せ、今ではそれがコア事業になりました。もし、既存の事業を否定する新規事業の発展を拒んでいたら、今のNetflixはありません。
覚悟と並行して重要なのは、最近よく聞かれるパーパスです。それもブランドパーパスではなくコーポレートパーパス、企業の存在意義です。社会の中でどのような意義を果たすのかを見定めて、DXの方向性がそれに合致するかをリーダーが常に参照することが大事だと思います。
たとえば、日本でDXに成功している企業はリクルートとソニーの2社ほどしかないと考えているのですが、以前リクルートの役員の方に「かつては飛び込み営業の戦士だった方々が、どうやってデジタル人材になれたのか」と聞いたところ、「7年間で全社員が入れ替わるほどの離職率なので、おのずとトランスフォームする。ただし、リクルートのイズムは残す」と返答を得て納得しました。人が入れ替わってビジネスモデルや組織が変革しても、リクルートらしさ、コーポレートパーパスは残るのです。
ソニーでも、一時期は大きな赤字に苦しみましたが、デジタルの流れに乗って収益構造を変化させ、V字回復を実現しました。ひと昔前とはコア事業ががらっと変わり、エンタメとテクノロジーとファイナンスの会社になっています。これこそ、蝶にトランスフォームした事例だと思います。そのソニーが、2019年に「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす」と言うパーパス(存在意義)をしっかり定めたことは、まさに象徴的な話でしょう。
「パーパス&ボールド」を念頭に覚悟を持って漕ぎ出す
最後に、組織について少し触れておきます。冒頭で紹介した図のいちばん上、コア事業の破壊も辞さずに改革を進めるのだと言うのなら、経営直轄のところにDXの推進組織を部署横断的に作ることが必要だと考えています。併せて、そのリーダーには権限を与えつつ、関連部署の責任者もしっかり巻き込みながら、一蓮托生で進めるフォーメーションが不可欠です。当然、この活動自体をトップが全面推奨するものであるべき「パーパス&ボールド」を念頭に覚悟を持って漕ぎ出すで、経営とDX推進組織のリーダーの間で常に意思疎通していることが前提です。
冒頭でお話ししたように、日本企業のDXの推進を目指してDXJAPANを立ち上げました。デジタルが目的ではなく、デジタルが当たり前に浸透した顧客を起点とする全社改革が、デジタルトランスフォーメーションです。
私が考えるDXのキーワードは「パーパス&ボールド」です。前述のように企業の存在意義を見つめ直し、そして大胆に踏み出す。忘れがちですが、PDCAやPoCを小さくやっていても企業変革は起こりません。むしろ、無駄な投資に終わります。変わるためには、大胆な投資が不可欠です。どうか覚悟を決め、企業の存在意義を見つめ直して、その存在意義を未来につなぐために、大胆に踏み出していただけたらと思います。