※本記事は、2020年8月25日刊行の定期誌『MarkeZine』56号に掲載したものです。
課題は見据えている現場と理解が進まない経営層
DX JAPAN 代表 植野大輔(うえの・だいすけ)氏早稲田大学政治経済学部卒、商学研究科博士後期課程単位満了退学。三菱商事(情報産業グループ)に入社、在籍中にローソンに約4年間出向。ボストンコンサルティンググループ(BCG)を経て、2017年1月ファミリーマートに入社、改革推進室長、マーケティング本部長を歴任の後、デジタル戦略部長に就任。デジタル統括責任者として全社デジタル戦略の策定、ファミペイの垂直立ち上げ等のデジタルトランスフォーメーション(DX)を主導。2020年3月、DX JAPANを設立。
2020年3月、日本企業のDX推進を掲げてDX JAPANを創業しました。奇しくも世の中が大変なときに独立する運びになりましたが、創業と言っても今は自分一人、フットワーク軽く動き出したところです。コンサルタントではなくアドバイザーとして、企業と向かい合うのではなく横に立ち、戦略のアドバイスから人材育成まで臨機応変に対応しています。
この3年間、ファミリーマートのデジタル責任者として組織構築や「ファミペイ」の準備を進める間、DXに関する相談を本当に多く聞きました。それを元に、直近でデジタルシフトウェーブのWebマガジン「Digital Shift Magazine」にDXに関する寄稿を連載したところ、たくさんの反響をいただきました。現場のデジタル担当の方にとって、連載で指摘した課題がまさにDX推進を阻む壁になっていると、ある程度認識されていたことは救いでした。ただしそこでは、理解が遅れている経営層がネックになっています。「まさに当社の課題が書かれている」という感想には、残念ながら日本企業のDXの遅れを感じざるを得ませんでした。
本稿は、その寄稿の一部「DX7大幻想」をダイジェストで紹介しながら、企業のDXに欠かせない要素と考え方を解説していきます。
青虫のままでは絶対に空は飛べない
前提として、“DX”について整理しておきます。今やデジタルはすっかり人々の生活に浸透し、企業はそんな顧客を起点にして関係を再構築して、改めてビジネスを組み立てていかなければ生き残れない時代になりました。デジタルはもはや、当然です。なので言葉としては“デジタル”ばかりが目立ちますが、DXのXが意味する“トランスフォーメーション”にこそ、注目していただきたいと思います。
トランスフォームとは、変革であり、形態の変質です。青虫がさなぎになり蝶になることを変態と言いますが、企業のトランスフォームはまさしく変態でもあると思っています。青虫のままでは、絶対に空は飛べません。事業を部分的にデジタル化しても、それはただの小手先です。バージョンアップとは次元が違うのです。
自己犠牲も辞さず、既存の企業を破壊してまったく違う姿を創造する、そこには覚悟が必要です。今の時代に合わせて、企業をトランスフォームさせることが重要であり、デジタルによる企業の構造改革とビジネスモデルの革新がDXの本質です。皆、デジタルという言葉に逃げがちで、デジタル風の活動をしているとDXが進んでいるつもりになっているのは、非常に問題だと思います。
そもそもなぜ、DXが迷宮入りしてしまうのでしょうか?
あらかじめ、企業が進む方向を共有するために、たとえば下記のような図を使っています(図表1)。
「デジタルとは?」と問われて「ブームだ」と答えるなら、その企業にDXは勧められません。図の下段の“DXごっこ”を進めていただければと思います。
デジタルは第4次産業革命だと認識するなら、次に「どこをDXするか?」が問われます。図のいちばん上、コア事業のDXをするなら、覚悟してコア事業の破壊と創造に臨んでください。
もう1つDXには道筋があり、それがコア事業以外で進める方向性です。全社やコア事業領域で拙速に進めるのは心配だ、時期尚早と言うなら、デジタル変革にまだ可能性がある一部門だけをデジタル特区化し、そちらを未来のコア事業になるよう育てる。最終的には、今の本業ごと、この未来の事業に飲み込んでもらうという道もあります。
しかしながら、本当のDXである上段の2つの旅路を阻むのが、これから解説する7つの幻想です。本格的にDXを推進する意志はありながら、下段に転落してしまうのは、わかっていながら“確信犯的”に幻想を捨てられないのが原因だと思います。