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MarkeZine Day(マーケジンデイ)は、マーケティング専門メディア「MarkeZine」が主催するイベントです。 「マーケティングの今を網羅する」をコンセプトに、拡張・複雑化している広告・マーケティング領域の最新情報を効率的にキャッチできる場所として企画・運営しています。

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MarkeZine Day 2025 Retail

定期誌『MarkeZine』特集

複数のシナリオを想定し、打ち手を多く持つ ニューノーマル時代のブランドに必要なこと

ブランドにできる打ち手をたくさん持つ

――ECは、今回を機にさらにすそ野が広がり、この後も定着する流れのひとつと見られています。一方でリアル店舗の位置づけや役割はどう変わっているでしょうか?

 以前から、オンラインが便利になる分、オフラインは逆に“特別な体験をする場所”として際立つという流れがありました。これは、コロナ禍によって加速する潮流のひとつだと思います。

 そして今、店舗での体験と言うと、デジタル活用が当たり前になっています。たとえば6月にオープンしたユニクロ原宿店は、アプリと連動した売り場を設けるなど、デジタルハイブリッドな作りをしています。ECが浸透したとはいえ、一般的には店舗の購入率のほうがずっと高いです。デジタルを店舗に導入すると、店内だけでなくその前後においてパーソナルな体験を作りやすくなりますし、決済の仕組みも商品を台に置くだけのようなセルフレジならECよりもむしろラクだったりするので、デジタルによって店舗の売上効率は上がると思います。

 同じアパレル業界ではBEAMSやWEGOでは外出自粛期間中、デジタルを活用したスタッフの発信が活発でした。店舗の営業が徐々に元に戻ると、個性あるスタッフに会える場としての魅力も以前より増すでしょうし、店舗自体が情報発信のスタジオ的な役割も担っていきそうです。

 また、興味深かったのは、ワークマンが好調だったことです。多くの店舗が休業する中、同社はエッセンシャルワーカーを含む“働く人向けの用品”を扱っているので、むしろ開けていることに大義名分がある。ブランドポジションに納得感があり、安心感や信頼も向上したのではないかと思います。

 こういった動きを受けて、我々も店舗の位置づけを見直そうとしています。

――緊急事態宣言解除後の6月以降は、長期戦だと皆が実感し、変化が定着する部分も出てきています。今後のマーケティング戦略、特に広告宣伝に関しては、どういった部分に注意されていますか?

 ここからは、中長期的な観点で複数のシナリオを想定しておくことが必要です。自社の資産を棚卸しして、マーケティングの打ち手をなるべく多く持っているほうがいい。我々も、スポーツ以外に複数の商品を手掛けているので、状況の変化と人々のセンチメントを捉えながら、カードを切れる機会を逃さずうまく使えるようにと考えているところです。

 製造業、特に卸先との取引がある企業は、通常は流通業の計画も加味して半年以上のスパンで生産と販売の計画を立てています。広告宣伝の計画もありましたが、それらが当初の計画と変わるのはまず仕方ないと思います。特に人々の意識が揺れ動いているときなので、普段以上に世の中の雰囲気をつかむことが大事です。

 たとえば、いくらビジネス機会があっても、今は大手を振って売り込みのメッセージを発信できる業種は少ないですよね。仮に特別定額給付金の10万円でシューズを新調する人が多かったとしても、我々がもし「給付金で靴を!」と言ってしまったら、食い物にしていると炎上するでしょう。ただ、スーパーなど生活必需品の売り場なら、ぎりぎり大丈夫かもしれない。そうした線引きが求められます。

商品の解釈を変えて変化する価値観に寄り添う

――確かに……。いくら皆が気分を変えたいと思っていたとしても、またビジネス上で需要喚起が必要でも、今大々的に旅行のキャンペーンが展開されたら戸惑います。

 そうですよね。我々も、緊急事態宣言が解除後の6月以降はサンダルや半袖のシャツなどの夏物商品が普段よりたくさんあり、例年なら夏休みに向けたリゾート切り口の訴求もマッチしますが、今年は難しいと思います。

 ただ、「給付金も入ったし、何か新しいモノを買って気分を上げたい」とか「暑くなったし旅行もしたいが遠出はできない、でも夏の雰囲気は味わいたい」といった気持ちは確実にあります。そうした部分に、商品の解釈を変えて寄り添えれば、違和感や反感を生まずに訴求でき、一定のビジネス成果を見込めるのではないかと思います。

――では、そうした解釈や訴求を見つけるための考え方は?

 在庫を売りたいとか、そのために割引をといった企業視点での短期的なアプローチではなく、ブランドがこれまで提供してきた価値や、何に貢献できるかといったところから考え始めるのが大事だと思います。

 我々だと、先ほど4~5月には運動不足解消のニーズを捉えたとお話ししましたが、もう一段踏み込むと単なる身体的な効用というより、それによるメンタルケアに注目していました。特に子どもがいる家庭では、子どもが自由に外で遊べないこと自体、本人も家族にも一定のストレスがあったと思います。そうした状態に対して、体を動かすことによるリフレッシュや気持ちの解放にニューバランスがどう寄与できるか、という観点を常に持っていました。

 フィジカルな活動は本能に結び付いているので、そのまま人間らしさの回帰にもつながっています。外出自粛期間中に外に出る機会は少ないのにアウトドア用品が売れたのも、家の中でわざわざ手間をかけてテントを張ったりすることで、身体性を通して人間性の回復を暗に求めているのではないかと感じています。

 また現在進行形で、プロスポーツの再開と観客の戻りにも注目しています。スポーツ観戦によるリフレッシュに加え、外に出るならシーズンの服を着よう、といった意識や行動も人間らしさを取り戻すことにつながるので、そうした価値観への提案を考えています。

 身体性ひいては人間性への注目は、あくまで我々の場合ということですが、各領域やブランドの状況を踏まえて、変化している人々の価値観とそれに対するオファーを考えることが突破口になるのではと思います。

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自分らしさに回帰する生活者に何を提示すべきか

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この記事の著者

高島 知子(タカシマ トモコ)

 フリー編集者・ライター。主にビジネス系で活動(仕事をWEBにまとめています、詳細はこちらから)。関心領域は企業のコミュニケーション活動、個人の働き方など。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2021/02/26 17:48 https://markezine.jp/article/detail/34062

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