潜在的に共有された「時代の価値観」を理解し、社会変化を捉える
この兆しを捉えるbackslashの視点として特徴的なのが「カルチャー」という視点です。カルチャーという言葉は日本では「カルチャースクール」や「カルチャー雑誌」といった趣味やライフスタイルの意味で使われることが多いですが、我々TBWAはそれらも含めて、人々が同時代に共感・共有する「時代の価値観」という意味でこの言葉を使っています。
マーケティング用語でターゲットの顕在化した欲望である「ニーズ」に対して潜在的な深層心理を指す「インサイト」という言葉がありますが、「カルチャー」はこのインサイトのさらに根底になる、人々の潜在意識の集合体やその意識の向く先を司る意識の流れのようなものです。

「4つのカテゴリ」と「17のEdge」
ご紹介した「ワーク・ライフ・バウンダリーズ」は17の兆しを4分類するカテゴリのうち、「Social Issue(社会課題)」と呼ばれる社会問題や社会課題の発生を予見する兆し群のひとつです。

そのほか3つのカテゴリと代表的ないくつかの兆しを、象徴する事例と合わせてご紹介します。
「Psychological(人間心理)」カテゴリ:ヒューマンリー・オーセンティック
心理的な変化を捉えた兆しのひとつであるこちらは、技術革新による技術競争が進む今の時代において「良いイノベーションには人間味が必要だ」という人々の価値観を示しています。本連載の初回でご紹介した「Oisixおうちレストラン」は、まさにこの兆しを象徴する事例のひとつです。技術そのものはECという既に広く普及したものを使っていますが、「プロの味を自分で作ってみる」という新しい食体験創造のために使うことで外食にも行けず自宅での料理レパートリーを欠いている生活者の感情に沿ったイノベーションを実現しています。
「Psychological(人間心理)」カテゴリ:オルタナティブ・ホーム
同じカテゴリからもうひとつ人々の居場所についての新たな価値観を示す兆しをご紹介します。自宅、職場の他に人々が心休める第3の場所(サード・プレイス)を提供したのはスターバックスコーヒーですが、物理的に人が集まることが難しくなった今、そのサードプレイスに続く「デジタルが生み出した自分だけの新地元」を求める人々が出てきています。この兆しを象徴する事例が第2回でご紹介した「オンライン宿泊」です。インターネットを通じて世界中の様々な場所にいる人と擬似的に宿泊体験をするこのサービスの本質は宿泊者どうしのコミュニケーションにあるとご紹介しましたが、そのコミュニケーションを求める根底にはこうした兆しがあると考えられます。
「New Society(新たな社会)」カテゴリ:ラベリングからの解放
今までになかった新しい社会の到来を予見するこのカテゴリは、4つの兆しから構成されているのですが、共通しているのは性別、年齢、人種といったラベリングによる「差別や格差を無くそう」ということ。第3回でご紹介した「スーツに見える作業着」は「見た目バイアスからの解放」という社会の実現を目指している点で、まさにこの兆しを象徴している事例だと言えます。
「Tech(テクノロジー)」カテゴリ:マネー・トークス
技術進歩に関するカテゴリでは様々な技術に関する人々の価値観の変化が紹介されています。そのひとつが「お金についての話を積極的にするようになった」ということ。少し前まではたとえ友人のような身近な存在であってもお金に関する話題はタブーのように感じられましたが、最近では投資や資産運用について話す機会が増えた人も多いのではないでしょうか。その背景にあるのは、電子マネーをはじめとしたお金に関する技術の進化。この兆しを象徴する事例で最も頻繁に目にするもののひとつが、飲み会終わりの割り勘の際に幹事から言われる「○○ペイ持ってる?」という言葉。コロナによって非接触決済が普及するなか、こうしたお金に関する話題は今後増えていくと考えられます。
