仮説検証は部門を越えて行う
分業は、壁で囲われたサイロ状の運営のことではない。「自分の専門スキルをもって、チームに貢献するという考え方こそが、本来の分業だと思います」と福田氏は指摘する。そのために必要なのは、部門を超えた動きを意識的に取り入れることだという。
マーケティング担当者がユーザー会に参加して既存顧客の声を聞く、インサイドセールスが商談ピッチ後の初回コールに同席する、営業担当が受注後の導入コンサルティングに参加するといったことは、互いの仕事を理解するうえで効果的だ。このような機会を、リーダーは積極的に作っていくべきだと説く。

ビジネス全体に目を配り、リソース配分の意思決定をしていくことは、事業責任者の重要な役割だ。経営指標がそのための手がかりとなるが、「ただ数字を見るだけでは不十分」と指摘する。1対1でのミーティング、あるいはチームミーティングを通じて顧客観察を行い、考察を重ね、仮説を設定し、検証することが必要だ。
データで把握できるのは全体の2割ほど
だが、要因を様々な角度から突き止めていっても「これはほんの氷山の一角で、実際のことはほとんどわからない」と福田氏は語る。正しいデータを定点観測し、複数の要素を組み合わせたとしても、全体の2割くらいしか把握できないというのが福田氏の感覚だ。「人は感情で動く生き物だから」というのが、その理由だ。
人間には承認欲求やエゴがあり、同じ事実に対する捉え方も人それぞれで異なる。評価指標や業績の良し悪しによって、行動が変わることもある。そもそも、すべてのデータが客観的だとは言えない。受注件数やウェブトラフィックなどの数字は変えようがないが、商談件数やMQL(Marketing Qualified Lead)やSQL(Sales Qualified Lead)は主観的に判断でき、人為的にコントロールできるためだ。
そのため、「これだけはやってはいけない」と同氏が注意喚起するのが、「個別最適に陥ること」だ。マーケティング、インサイドセールス、営業、カスタマーサクセスの4部門を例に、考えてみよう。

カスタマーサクセスにとっては、契約更新件数が重要な指標だ。そのため解約につながりそうな顧客にはそもそも売るべきではないと言い出しかねない。受注件数が伸び悩む営業は、基準を緩めてでもどんどん商談化したリードを渡してほしいと、インサイドセールスに頼むだろう。
インサイドセールスが最重要視している指標が商談化件数であれば、短期間で商談がまとまりやすい中堅中小企業を優先しがちだ。リード数やコンバージョン数に追われるマーケティングは、本来ターゲットとしているセグメントから他領域まで拡げるかもしれない。
このように部門ごとの最適解を求めてバラバラに動いてしまっては、組織全体として成り立たない。サイクルの中で、一体どこにボトルネックがあるのか、何を解決すればうまく流れるようになるのか。
「ボトルネックを一つ改善したら、また次に移っていく。それを繰り返していくことこそが、組織をうまく運営するための秘訣であり、CRO(最高収益責任者)の仕事だと思います」と福田氏は語る。
そして、最後に福田氏はBtoBマーケティング、営業などに携わる聴講者に向けて以下の言葉を残し、セッションを締めくくった
「人間はモチベーションが変わるだけで、生産性も大きく変わります。それが難しい点であり、おもしろさでもある。うまくいかなくて当たり前だと考え、問題が起きたら解決し、また次の問題に取り組むというマインドセットで、楽しく取り組んでいただければと思います」(福田氏)
福田氏は『THE MODEL』の中でも、分業を超えて共業を目指すべきだと語っている。ぜひ今回の記事をヒントに、自分が所属する以外の部門に対して新たな働きかけをしてみてはいかがだろうか。