『THE MODEL』は完成したプロセスではない
日米のオラクルやセールスフォース・ドットコム、マルケト日本法人で経験を積み、SaaSビジネスの最前線で活躍してきた福田康隆氏が、著書『THE MODEL』を刊行したのは2019年の1月。商談化のプロセスを複数の職種で担当し、高い成果を生み出すフレームワークを紹介している。
福田氏がこの本を通じて伝えたかったのは、成功したモデルやベストプラクティスは完成したプロセスではなく、そこに至る過程で積み重ねてきた意思決定そのものであるということ。世の中で「ベストプラクティス」と呼ばれるものの多くは、会社の仕組みそのものが効果を出す「成熟期」のものが多い。
だが、「立ち上げ期」や「成長期」に試行錯誤を繰り返したことが、ベストプラクティスへとつながっていく。この本に収められているのも、同氏が様々な経験から得た「仕事の原理原則」なのだという。
自社のニーズと顧客のニーズの重なるところ
『THE MODEL』刊行後に多く寄せられたのは、分業体制に関する質問だ。特に、社内の効率は上がっても顧客視点に欠けるのではないか、分業を顧客は本当に望んでいるのだろうかといった不安は根強いという。
ここで福田氏は今から15年ほど前、日本でインサイドセールスを始めたときのエピソードを紹介した。当時は、「顧客は訪問するのが当たり前。電話でのヒアリングでは失礼」とよく言われたという。
だが実際に開始してみると反響は上々だった。挨拶だけでもと言って客先を訪れ、名刺を置いて帰る営業への対応に、多くの企業は辟易していたのだ。
会えば時間を取られ、会わなければ幾度となく連絡が来る。もし製品やサービスに興味があったとしても、すぐに返事してしまうと猛烈にアプローチされてしまう。「インサイドセールスが、電話やウェブ会議で資料を共有しながら短時間で対応してくれるのは、検討する際に非常に助かる」という声が寄せられたと福田氏は振り返る。
「自社の効率化だけを追求しては、顧客には受け入れられません。しかし、顧客の要望をすべて満たそうとすると、リソースの制約があって不可能です。両方を満たす方法を探して知恵を絞る中で、新しい方法が見えてきます」(福田氏)