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「キャリアのマーケティング、できていますか?」リクルート塩見氏と考える、マーケターのキャリア

 2020年10月23日、Marketo Engage (以下、Marketo)のユーザー向けイベント「MUG Day Online」が行われた。ユーザーからの発信を通し、Marketoの利用促進や課題解決を目的とする本イベント。Marketo Masterたちの座談会や活用事例など、多彩なアジェンダが並んだ。そして、オープニングの特別対談には、ゲストスピーカーとして、リクルート執行役員 塩見直輔氏と、MarkeZine編集長 安成蓉子の2名が登壇した。「マーケターのキャリアをマーケティングする」と題して、マーケターのキャリア構築の道筋を語った。

マーケターを悩ませる、スキルの賞味期限

 はじめに、スピーカーを紹介する。モデレーターの塩見氏は、雑誌の編集者を経て、2007年にリクルートへ入社。同社の様々なサービスに関わり、2016年からは、リクルートホールディングス ネットマーケティング推進室室長として、マーケティング組織をリードしてきた。リクルートのマーケターは、事業現場とコーポレートの両方に所属する。プロフェッショナルもジェネラリストも目指せる環境で、マーケティングキャリアを伸ばせるのだ。それでも塩見氏は、「必要なスキルが変わり続けるデジタルマーケターのキャリア構築は、難しい」と語る。

 ナビゲーターの安成も、編集者として10年近くマーケティングトレンドを追いかける中で、「時代ごとに求められるマーケティングスキルが変わっている」と強く実感。MarkeZineで扱うトピックも、マーケティングの手法だけでなく、戦略・組織・キャリアと幅広い領域に拡がっており、読者層の関心の変化がうかがえる。マーケターを取り巻く環境を踏まえ、セッションはスタートした。

(左)株式会社リクルート 執行役員 塩見直輔氏
(右)株式会社翔泳社 MarkeZine編集長 安成蓉子

マーケティングキャリアのPDCAを回せているか?

安成:このセッションは、3つのアジェンダで進めていきます。まず1つ目は、「キャリアを“マーケティングする”という視点」です。聞き慣れないフレーズですが、具体的にはどのような視点なのでしょうか。

塩見:デジタルマーケターは、正しく効果を測り、次のアクションにつなげるPDCAが仕事ですし、得意分野です。ならば、自身のキャリアについても同じようにPDCAが回せるのではないかと思っています。「自分の実力やスキルを正しく理解し、次のステップに正しくアクションできているか?」。これが、「キャリアをマーケティングする」です。

 でも実際は、「自分のスキルを測るモノサシがなく、市場における自分のポジションがわからない」と相談を受けることが多いですね。

社外のマーケターと比較し、自身の市場価値を知る

安成:そこで、2つ目のアジェンダに「マーケターとしての市場価値を測る方法」を用意しました。デジタルマーケティングは、3年も経つと、必要なスキルや学ぶことが変わってくる印象があります。そのような環境で、どのように自分のポジションを認識すればよいのでしょうか。

塩見:「市場価値」と言うくらいですから、ポジションは市場の中で相対的に決まります。絶対的な評価基準はありません。そして、比べるモノサシは、「人」でしかないと考えています。本日のMarketoユーザー会のように、今は社外のマーケターと出会う機会がたくさんあります。また、マーケターが多い組織だとしても、自社のマーケティングレベルを知るためにも、社外のマーケターと交流し、市場へ目を向けてほしいです。

安成:リクルートは、200人ほどマーケターが在籍するそうですね。 モノサシが多い社内とも言えます。

塩見:はい。2、3年前から、シニアの社員を中心に、失敗体験を「しくじり」として語ってもらう場を作りました。大きな失敗は、経験値になります。それを発信することで、「先輩は、挑戦してこんな失敗したんだ。自分はまだまだだな」と、評価や失敗を気にする若手のモノサシにしてもらいたいと考えています。また表彰制度も、各自のポジションの把握につなげる目的で設計しています。

記事やプレゼン内容に隠された「大事なこと」を見つけ、質問しよう

安成:他にも、マーケターとしての自分のポジションを把握する方法はありますか。

塩見:メディアも、モノサシにできます。MarkeZineなどの記事を読み、内容を100%理解できるかが、スタート地点です。実は、取材時に「本当に大事なこと」、たとえば実数値や失敗談などは、話さないことが多い。企業秘密やマイナスブランディングですから。

安成:そうですね。ビジネス上、「少し表現をぼかしてください」などのお願いはあります。

塩見:セミナーの内容も、同じです。記事やプレゼンに隠された「本当に大事なこと」に気づけると、著者やスピーカーと同じくらいの理解レベルになっていると思います。その上で、「ここ気になるな」「ここに何か隠していることがありそうだな」と気づいたら、相手に質問してみましょう。

安成:「知らない人にメッセージを送るなんて……」と戸惑う方も、ぜひトライしてほしいですね。私はよくメッセージをいただきますが、嬉しいです。塩見さんのように、自分自身で道を切り開いていく方は、知らない相手から声が掛かっても、ウェルカムなのではないでしょうか。

塩見:そうですね。登壇やインタビューのフィードバックは気になりますし、「おもしろかったです」というお褒めの言葉よりも、鋭い質問のほうが嬉しいです(笑)

 社外の人、セミナーや記事に登場する人と接点を作り、自分との差を確認していく方法はおすすめです。僕も気になることがあれば、すぐにFacebookでメッセージを送ります。本質を突く質問であれば、相手も好意的に受けとめてくださいます。

上司のタイプ別「自分の成果をアピールする」方法

安成:ここからは、3つ目のアジェンダ「会社や上司に成果をわかりやすく伝える方法」をうかがっていきます。自身のキャリアアップには、評価をする上司や組織に対して、成果の発信が重要です。しかし、デジタルマーケティングは専門領域な分、評価がされづらいとも聞きます。

塩見:上司や組織のタイプで、攻略方法が異なります。特に、論理性よりも定性面や感情を重視する企業の場合は、「わかってくれない」と不満を募らせても仕方がありません。上司や組織が大切にしている情理に働きかけましょう

安成:情理に働きかけるとは、具体的にどのようなことですか?

塩見:たとえば、ユーザー会に登壇した実績やメディアに掲載された事例を作り、第三者からの評価をプレゼンする方法です。デジタルマーケティングがわからない上司も、評価をしたくないのではなく、評価の仕方がわからないだけなのだと思います。

安成:パートナー企業や代理店の力を借りる、またはアワードに応募するなど、社外の実績を活用するんですね。そして、メディアの事例取材を受けることも大事なポイントだと挙げていただきました。私たちMarkeZineも、現場のマーケターの皆さんが一生懸命に取り組んだ仕事を発信する場として、私たちを活用頂けると嬉しいです。読者の方のキャリア構築の支援ができることは、編集者の大きなやりがいの一つです。

塩見:いっぽうで、デジタルマーケティングに詳しく、定量の評価を重視する企業の場合は、同じ言語で話せますよね。この場合に注意したいことは、定量と定性をバランスよくアピールすることです。デジタルマーケティングでは成果を定量で表しやすい分、それ一辺倒になってしまう人を見受けます。誰もが表しやすいものだけアピールしても差別化できないので、定性のほうがむしろ重要になります。バランス感覚は大切にしましょう。

マーケティングスキルは、場数を踏んで伸ばす

安成:では、セッションの後半に入ります。前半の内容を受けて、聴講者の方からの質問に答えていきます。まずは「自分の仕事を、わかりやすく社内外に伝えるスキルを伸ばす方法を知りたい」です。

塩見:場数が必要です。マーケターは日々、ターゲットに伝えたいことを発信し、反応をいただくことを仕事にしています。つまり、日々の業務が自分のプレゼン力に直結するんです。ラッキーだと受けとめ、仕事の中で磨いていくといいですね。

安成:この質問には、「自分のキャリアをマーケティングする」ためのヒントが詰まっていますね。「わかってくれない」ではなく、「どうやったら伝わるか?」を考えて、何度もトライすることが、突破口になると思います。

 実は私も、伝えることが苦手なほうです。でも、伝えたいことはたくさんあります。どうすればうまく伝わるかを考えながら、時に失敗をしつつ、何百回も取材を繰り返し、仕事の面白さや媒体の魅力を何度も伝えていくことで、周りの方々にご理解いただけていると思います。塩見さんがおっしゃる通り、場数を踏むことが大切だと感じました。

マーケターの専門性とマネジメント力。両方を選んでもよい

安成:続いては、「マーケターの専門性を深めるべきか、経営やマネジメント領域までスキルを広げるべきか」という質問です。中堅キャリアの方は、悩むところですね。マネジメントの仕事は、やってみないと向き不向きがわからない傾向もありますが、まずは「自分の方向性を定めること」でしょうか。

塩見:永遠のテーマですが、僕の場合、なるべく2つが同時に手に入る方法を考えてきました。仮にマーケティング専門役員を目指したいのならば、経営の知識も必要です。つまり、どちらの知識も経験も欲しい。マーケティングの仕事と経営の仕事があったとき、どちらか1つだけを100%やるのではなく、両方やってみる。普通にやれば50%+50%ですが、うまくやれば55%+55%になるかもしれません。同じ時間と情熱を費やすのであれば、うまくいけば総量が増えるやり方を探すのがよいと思います。

 すると、「両方できるのか?」と聞かれますが、できるときはできる。二刀流のスポーツ選手が証明してくれていますし、「マーケティングと経営、両方やれなくはないでしょ」のほうが、エキサイティングでおもしろいですよね。

安成:「どちらかを選ぶのではなく、両方できる方法を考える」ですね。では、最後の質問です。塩見さんにとって、マーケティングとは何でしょうか。

塩見:わからないです。難しすぎます。しいて言えば、「自分の中の定義が変わっていくもの」でしょうか。若い頃は集客やプロモーションの意味で捉えていましたが、今は広義な意味で捉えています。

安成:おっしゃる通り、人によってマーケティングの定義が異なりますよね。経営そのものをマーケティングと語る方もいらっしゃいます。

塩見:実際に、私の中でも、経営とマーケティングの距離は近づいています。経営の立場から従業員や株主をマーケティングすると言えるし、経済活動全般がマーケティングに着地するとも感じます。

 また、フレームワークの3C、「自分・競合・市場」を使って「自分のキャリアをマーケティングする」と、キャリア戦略がもっと明確になります。年を取れば取るほど、マーケティングのフレームワークは、あらゆるところで使えると実感します。

安成:マクロとミクロの目を持ち、視野を広くして「マーケティングとは何か?」を考えたいですね。専門領域のスキルも磨きつつ、マーケティングを大きく解釈していくと、チャレンジの幅も広がるのではないかと感じました。ぜひ、キャリアの構築にMarketoユーザー会のような機会も、活用していただきたいです。本日は、ありがとうございました。

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この記事の著者

マチコマキ(マチコマキ)

広告営業&WEBディレクター出身のビジネスライター。専門は、BtoBプロダクトの導入事例や、広告、デジタルマーケティング。オウンドメディア編集長業務、コンテンツマーケティング支援やUXライティングなど、文章にまつわる仕事に幅広く関わる。ポートフォリオはこちらをご参考ください。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

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MarkeZine(マーケジン)
2020/12/08 10:00 https://markezine.jp/article/detail/34791