最適な体験を可能にする事業のスケールアップと改良
では、実際どのようにして多種多様なニーズを持つ顧客一人ひとりに対して、最適な顧客体験を提供しているのか。
基本は、閲覧ページ、閲覧していないページ、購買情報など顧客のあらゆる活動データを分析し、より良い顧客体験の創出につなげているという。当然、顧客データが増えれば増えるほどより顧客体験を最適化できるが、モノタロウの顧客体験向上の戦略はデータ上だけにとどまらない。
「顧客が増えると流通量が増えて、在庫点数が増える。倉庫を拡大していくと、品揃えを増やせると同時に、自社ブランドを推進しやすい環境が手に入ります。在庫点数を増やして自社ブランドも持てば、より素早く注文に対応できるので、納期を短縮できます。このように顧客数の増加にともなって事業をスケールアップしていくことで、最終的に顧客体験の向上につなげているんです」(米島氏)
大規模な戦略には間違いないが、細かな施策を一つひとつ積み重ねているからこそ実現できている。サイト内検索1つとっても、検索体験を向上させるため、データ分析を徹底し、アルゴリズムを改良し続けている。
たとえば、「手袋」と検索すると、検索ユーザーの過去の行動履歴に合わせて、表示が変化する。医療系のユーザーの場合は医療現場で使われる手袋が、自動車整備業のユーザーの場合は専用の手袋が表示される。また、商品ページにない専門ワードや業界用語での検索にも対応しているという。ユーザーが少しでも早く目的の商品にたどり着くための仕組みが随所に施されているわけだ。

コロナ渦でモノタロウに起こった3つの変化
順調に成長を続けてきた同社だが、コロナ渦ではどのような変化が起きたのだろうか。米島氏は、「顧客の変化、商品の変化、私たち自身の変化」があったという。
「顧客の変化」では、在宅勤務の増加や実店舗の短縮営業により、経済活動が一時期減少の傾向にあった点を挙げた。
一方「商品の変化」に関しては、売れ筋商品に大きな変化が出た点を挙げた。マスクや消毒用アルコールだけでなく、自粛期間中に在宅時間を快適に過ごすための商品(跳躍器具やデスク、ミシンなど)が予想以上に売れたというのだ。
その変化にともない、法人ではなく個人の登録が急増したという。偶然にも、モノタロウでは2020年3月から個人登録ができるよう仕様変更を実施していた。個人需要に応えられる体制を整備できていたのが功を奏したようだ。
ただ、当初は法人と個人のデータが混在した状態になっていたため、データ分析の精度を上げるために両者を峻別するよう改良。また、別途展開していた個人向けのECサイト「IHC.MonotaRO」を2020年8月にモノタロウに統合した。

「私たちの変化」、つまりモノタロウ社員の変化としては、在宅勤務によるリモートワークを増やした点を挙げた。一般的に、在宅勤務に切り替え、オンライン上でのコミュニケーションが主軸となると、意思疎通が難しくなるなどの課題が起こるが、同社の場合はドキュメントでのやりとりや1対1の打ち合わせを増やすことで解決できたという。