※本記事は、2021年2月25日刊行の定期誌『MarkeZine』62号に掲載したものです。
メディア接触時間 デジタルが過半数を占める
2020年はコロナショックにより社会情勢や経済活動に大きな変動が起き、現在もその影響が続いている。先行きが不透明な時代において、企業のマーケティング活動はどのように変わっていかなければならないのだろうか。MarkeZine編集部がデジタルインファクトと共同で実施した『マーケティング最新動向調査 2021』から、2020年のマーケティングをめぐる注目トピックを紹介する。
総務省が2020年5月に発表した『令和元年 通信利用動向調査』によると、2019年のインターネット利用率が89.8%となり、前年から10%も上昇した。さらに、全メディア接触時間におけるデジタルメディアが占める割合がはじめて半数を超えたことが、博報堂DYメディアパートナーズのメディア環境研究所がまとめた『メディア定点調査2020』によって明らかとなった(図表1)。
東京地区における1日あたり(週平均)のメディア接触時間は411.7分、そのうちデジタルメディア(パソコン、タブレット端末、携帯電話/スマートフォン)の合計接触時間は212.5分で全体の51.6%に。特に10代と20代では他のメディアを抑えて携帯電話/スマートフォンの接触時間が圧倒的に多い。一方で、50代と60代ではまだテレビの接触時間が多数を占めている。ただし、テレビ端末をインターネットに接続した状態で利用する「コネクテッドテレビ」も浸透しつつある。
本調査の全結果とクロス集計の結果に加え、「マーケティングをめぐる近年の動向の概観」や「主要マーケティングプラットフォーマーの動向」をまとめた『マーケティング最新動向調査 2021』は、翔泳社のECサイト「SEshop」でのみ販売しております。
ネット広告の成長をドライブする3要素
今後もデジタルメディアの接触時間が増えるのであれば、インターネット広告の動向は把握しておく必要がある。2019年のインターネット広告費がテレビ広告費を超えたという発表があったが(電通『2019年日本の広告費』)、成長をドライブしている要素は主にモバイル・動画・ソーシャルに集約される。
D2C、サイバー・コミュニケーションズ、電通、電通デジタルが発表した『2019年日本の広告費インターネット広告媒体費詳細分析』によると、インターネット広告費からインターネット広告制作費と物販系ECプラットフォーム広告費を除いた「インターネット広告媒体費」は前年比14.8%増の1兆6,630億円。そのうちビデオ(動画)広告費は前年比57.1%増の3,184億円と大きく成長し、19.1%を占めている(図表2)。
ソーシャル広告も前年比26.0%増の4,899億円に成長、全体に占める割合は29.5%に(図表3-1)。その内訳を見ると、SNS系が2,280億円(46.5%)、動画共有系が1,139億円(23.2%)となっている(図表3-2)。
動画広告の比率は高まる一方で、FacebookやInstagram、さらにTwitterでは多くの広告が動画で配信されており、TikTokではほぼ100%が動画である。
また、2019年3月発表の『2018年日本の広告費インターネット広告媒体費詳細分析』では、「インターネット広告媒体費」をデバイス別で見ると、モバイル広告費が全体の70.3%(1兆181億円)に上り、モバイルのみではじめて1兆円の大台を突破している。
購買チャネルとしてのソーシャルメディアの存在感
多くの企業が施策をデジタルやオンラインにシフトする中、プラットフォーマーが進めてきたサービス開発により、ソーシャルメディアは商品やサービスの露出、認知拡大、エンゲージメントの獲得、UGCの創出といった従来の役割が拡大するだけでなく、購買に直結するチャネルとしても機能するようになった。
プラットフォーム上で決済が可能な「チェックアウト」機能を米国で提供しているInstagramがよい例である。Instagramのショッピング機能では、そのアイテムを見て「いいな」と思ったらタップするだけで他の商品写真を閲覧できる。さらに、チェックアウト機能を使えば、外部のECサイトに遷移することなく、Instagram内で決済し、そのままアイテムを購入することもできるようになったのである。Instagramを始めとするソーシャルメディアは今や認知から購買に至るマーケティングファネルのほとんどをカバーしているが、それはプラットフォーマーが人々の欲求を刺激し増幅させることに長けているからだと言えるだろう。
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デジタルエンターテインメントの可能性
コロナ禍で大勢の人が同じ場に集まれないという制限から、エンターテインメントの世界では興行をオンライン化する流れが加速した。韓国のトップアイドルグループ「BTS」が2020年10月10日~11日に行った「BTS MAP OF THE SOUL ON:E」のネット配信では191の国と地域で99.3万人が視聴したという。
国内でもアーティストによるオンラインライブが増加。それを支えるプラットフォーマーによる新たな取り組みが目立った1年でもあった。その一例として、サイバーエージェントグループのAbemaTVが運営する「ABEMA」ではBTSの歴代ライブ映像を独占配信。2020年6月にスタートした有料オンラインライブ配信サービス「ABEMA PPV ONLINE LIVE」では、ライブ、イベント、スポーツ興行、ファッションショー、舞台などを積極的に配信している。
コロナ禍が収束すれば、再び多くの人が会場に集まってアーティストやスポーツ選手のパフォーマンスを楽しむ機会が増えていくだろう。一方で、オンラインイベントならではの楽しみ方とマネタイズが開発されていけば、新しいデジタルエンターテインメントビジネスがより広がっていく可能性がある。
生活や人間関係に密着したフィンテック
最後に、コロナ禍において現金の受け渡しを避けたいニーズと政府のポイント還元事業が相まって普及が進んだフィンテックについて取り上げたい。
近年、QRコードやバーコードで決済を行えるサービス/アプリが数多くリリースされたが、その筆頭である「PayPay」は企業が展開するキャンペーンに組み込まれるケースが増えている。たとえば花王では2020年9月と12月に、店舗で1,000円(税込)以上の同社商品をPayPayで購入したユーザーに花王商品の買い上げ金額の最大40%をPayPayボーナスとして付与する企画を実施した。商品の購入者と直接的な接点を持ちにくいメーカーがスマートフォン決済サービスと手を組んだことで、これまでにない顧客データを得られた可能性がある。今後、企業によるこうした取り組みは注目しておきたい。
また、楽天では2018年11月に低圧電力供給サービス「楽天でんき」をスタートし、200円ごとに「楽天スーパーポイント」が1ポイント付与される仕組みを提供している。楽天モバイルでは2020年10月に都市ガス取次販売サービス「楽天ガス」を開始しており、ポイントプログラムを備えた決済サービスを持つプラットフォームが日常生活を送る上で必要不可欠なインフラを自社のエコシステムに取り込む動きが進んでいる。フィンテックは人々の生活を便利にする一方で、企業が知りたいユーザーの情報を得るツールにもなる。オフラインやオンラインを問わず、企業のマーケティング活動において欠かせない存在となっていくのではないだろうか。
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