価値観の変化と実際のアクションは結びつくのか?
白石:実際、先生の研究室にはSDGsに関連した課題に興味のある学生の方々が多くいらっしゃると思います。学生のみなさんと日々接していて、意識の高まりや行動の変化を感じることはありますか。
たとえば、先日日本リサーチセンターが発表した『社会的課題に関する生活者意識調査結果』によれば、15~19歳の中で、社会的課題に対する「積極的活動意向層」は約半数を占めるという結果が出ています。

阿部:確かにSDGsに対する意識は総じて高いと思います。私の研究室では、エシカル消費やファストファッションの功罪などサステナビリティについての関心は特に高く、卒論のテーマとして選ぶ学生は多いですね。
しかしこうした分野をテーマに卒論を書いたからといって、実際にサステナビリティやSDGsに関する仕事に就いている学生は少ないのが実情です。せっかく学んだ知識やこれからの社会に必要な価値観を、しっかり胸に抱き続けてアクションまで移せているか、またはその価値観や意思を抱いても受け入れる社会があるのかというと、難しい現実があります。
白石:関心は高く必要と感じていながらも、具体的な行動となった場合には、現実社会とのギャップにぶつかる方も多いのかもしれません。企業からすると、SDGsに取り組むメリットの一つとして「優秀な人材の採用」「商品を選んでもらいやすくなる」と捉えている事実はあります。
阿部:立教大学に務めて19年になりますが、学生に関心の高そうな企業の方々をお呼びして環境就職セミナーを毎年数回ずつ行ってきました。
学生からはセミナーを行った直後は「こういう企業でがんばって働きたい」という感想をいただくのですが、実際の就職では「長く安定的に働けるところ」という意識が強いことも現実です。不安定な社会の中で、多くの学生は安定した生活を送りたいと考え、そこが就職や行動の主な動機になっていることは否めません。
白石:そうなんですね。実は2019年に、日本財団が「18歳意識調査」という定点観測を発表しまして、その中で世界9ヵ国の18歳に対して「社会や国に対する意識調査(PDF)」というものを発表したのです。

その調査では、日本の18歳が他の国と比べて、自分の国の将来に対する希望が異様に低いということがわかりました。「自分の国の将来についてどう思っていますか」と投げかけたところ、「悪くなる」と答えた人が37.9%、「変わらない」が20.5%、そして「どうなるかわからない」が32.0%。これらを全て足すと、実に9割が日本の未来に希望を持てていないんです。
それから「自分で国や社会を変えられると思う」という質問にも、18.9%しか「はい」と答えていません。先生はこの結果について、どうお思いになりますか?
阿部:今までこういう調査結果をたくさん見てきましたが、大体、悲観的な結果ですよ(苦笑)。ESDを通じて、Z世代の彼らは「持続可能な社会にしなければならない」という意識は高まっているし、自分ごとにもなっています。けれど、どんなに価値観が高まったって、結局企業も含め、社会が変わらないじゃないですか。
景気は不安定だし、自然災害はたくさん起こる。政治も落ち着かない。それは将来に不安を覚えて当然ですよね。いわば「あきらめ」みたいなものが実際の行動に出てきているなと感じます。
ただ、中には突き抜ける人もいましてね。「子ども食堂」をきっかけにSDGsに関心を持ち、参加したスウェーデンのSDGsツアーでグレタ・トゥーンベリさんのことを知って、もっと気候変動のことについて学びたいと僕のゼミに入ってきた学生がいました。
彼女は各種メディアにも出て、気候変動に対する自身の主張を述べるというアクションを積極的に行っています。そんな彼女が就職先として選んだのは、中小の印刷会社でした。この企業は「ジャパンSDGsアワード」で表彰されるなど、環境経営にシフトし、持続可能な社会を実現するためのパーパス経営を実践しています。
本当に行動力があって、自分ごと化できて、何があっても社会を変えるんだという強い危機感を持っている学生は、自分でふさわしい会社を探してきて就職してしまいます。でもそれは、決して表面的にSDGsに取り組んでいる大企業ではないということですね。というか、優秀な学生には企業のSDGsに対する本気を見抜かれてしまうわけです。
「トレンドだから何となくやっておこう」というようなSDGsウォッシュにつながりかねない姿勢で取り組むのではなく、トップ自ら本気でSDGsに取り組む姿勢を全面的に出していかなければならない。それぐらいの覚悟と行動改革が企業側にも必要なのではないかと思います。