気づいたら好きになる長期的なコミュニケーション
——企業がオウンドメディアとして開設する例を紹介いただきましたが、これらはテキストのコンテンツマーケティングの代替として模索されているのですか? それともまったく新しい取り組みとして?
企業によって異なりますが、従来の手法では頭打ちを感じ、新しい取り組みに少しずつリプレースする必要性を多かれ少なかれ見据えていると思います。前述のアルファロメオさんは、まさに新しい施策として、新車発売のマーケティング設計に組み込む形で番組を開設されています。車のような高額商品はすぐに購入を決断しないので、興味を持った人をゆっくりファン化していく場としてVoicyを活用いただいています。
——音声コンテンツは“ながら聴き”ができることもあって、聴取を習慣化しやすいと感じています。緒方さんから見て、音声コンテンツならではのユーザーとの関係構築のメリットはどういったところにあると思われますか?
おっしゃる通り、コンテンツの特性上、生活習慣に根付きやすい点は大きなメリットだと思います。かつ、前述のように聴けば聴くほどファンになる、親近感が生まれるのも特徴ですね。
——企業としてコンテンツマーケティング的に使う際、“ながら聴き”は許容されるものなんですか?
そうですね、それでまったく問題ないと受け止められています。というのも、たとえばテレビCMでも、パッと思い浮かぶものを教えてと言われると、「ポリンキー♪」とか「ファイト、一発!」といった音や声だったりしますよね。“耳に残る”とは言いますが、“目に残る”とはあまり言わない。
その場でコンバージョンさせるようなものには不向きかもしれませんが、だんだん耳に残していって、気づいたら好きになっていて、タイミングが来たらコンバージョンする……といった商材とは、とても相性がいいと思います。
経営視点を交えて中長期で効果を捉える
——お話をうかがっていると、予想以上に音声によるコンテンツマーケティングの可能性が開けていると思うのですが、現在2兆円規模のデジタル広告における割合や、今後の市場規模についてはどうご覧になっていますか?
これから爆発的に増大するかと言われるとわかりませんが、デジタル広告のうち20〜30%を音声が占めてもおかしくないだろう、とは思っています。加えて着目していただきたいのは、音声コンテンツは映像系と比較して制作費が格段に抑えられることです。コスト的に取り組みやすく、リスクも少ない。前述の“正直であること”を意識して、ファンやファン予備軍の方に喜んでもらえる質の高いものを用意できれば、中小企業さんでも十分活用いただけると思います。
——コストが抑えられる点は、大きいですね。ブランドやプロダクトのファン醸成の他に、何か活用例はありますか? たとえば、BtoBのウェビナーの代替もできたりするでしょうか?
そうですね、十分あり得ると思います。BtoBで営業担当者が毎回同じトークをするなら、ひととおりひな形を収録しておくとか。順を追って聴いていただくと、カスタマーサクセスのフォローアップになったり、事例などの共有の場にも使えます。
また、実は採用にも非常に有効です。たとえばVoicyでもたくさん自社の発信をしていますが、入社面接に来られる方はそれらを通して既に我々についてとても詳しいので、話が早いですね。
——ありがとうございました。最後に、音声コンテンツのマーケティング活用に興味を持たれる企業の方に意識してほしいことをうかがえますか?
そうですね、1つ考えていただきたいのは、日本企業の人事評価のサイクルが半年や3ヵ月と非常に短く、長期的な施策を打ちにくいことです。音声によるブランドリフトやエンゲージメント構築は熱しにくく冷めにくい、年単位で効果を発揮するようなものなので、担当者が人事評価を意識して短期的に効果を回収しようとしてもうまくいきません。そこはぜひ、経営視点も交えて長い目で、ブランディングやファン醸成を考えていただけたらと思います。