トレンドは線で捉える
――ここからは、Z世代のマーケティングについてうかがいます。まず、流れの速いトレンドを掴んでいくために大切なのは、どのような視点なのでしょうか。
若者のトレンドは“点”で見ようとしてもダメで、流れの中で捉える必要があります。私の手元には30人ほどのバイトの学生さんたちから、毎日膨大なトレンド情報が集まってくるのですが、来る日も来る日もそれに目を通し続けることで、変わっていること・変わっていないことが見えてきます。そのような流れが見えていないまま、一朝一夕で調べてヒットを狙うというのはとても難易度が高く、偶然に頼ることにもなってしまいます。残念ながら、若者向けの商品を企画してからリサーチを始める、自社が若者からそっぽを向かれていることに気づいてあわてて改善策を考える、といった企業は多いのですが、そうではなく、若者を注視し続け、トレンドの先にあるものに狙いを定めることで、ヒットする確率を上げていこう、というのが私の考えです。
――「Z世代は広告を打っても響かない」「広告嫌いなのでは」という声もよく聞きます。マスメディア中心だった世代にとっても、広告は「見たくないもの」という側面はありましたが、デジタルの滞在時間が長いZ世代は、浴びている広告の量が桁違いです。この違いは押さえておく必要があると思います。
それでも、彼らが共感するような表現やクリエイティブを用いて、メッセージを伝えることはできるはずです。たとえば、「A社と比較して、わが社はこんなに優れています」などと、他社を否定しながら自社の価値を訴えるような表現は嫌われやすい。『鬼滅の刃』の竈門炭治郎のように、誰に対しても共感できる人物が好かれるのです。だから、「A社もB社もみんなすごい。でもわが社にはこんな良いところがある」という伝え方のほうが浸透しやすいでしょう。「自社の強みが全然伝わっていないじゃないか」と思うかもしれませんが、これで良いのです。

――Z世代を中心に発信型、拡散型のSNSが浸透したことで、自社の商品やサービスが思わぬ形で注目を集めたり、逆にヒットまでのプロセスを綿密に設計しても、そのとおりにならないケースも見受けられます。マーケティングにおけるポイントはどのような点にあるのでしょうか。
以前はテレビ、マスメディアが情報発信の主な舞台でしたが、現在はSNS上で様々な文脈で情報がシェアされるようになり、それがマーケティングにインパクトを与えることも増えています。ニベア青缶のブームはその最たるもので、SNS上の口コミをきっかけに若者に爆発的に売れる商品になりました。
誰もがSNSを用いて発信できるようになったということは、自社に対するより多様な意見が表面化するということであり、そのすべてがポジティブということはほぼあり得ません。無難なもの安全なものよりも、多少ネガティブな意見を含んだもの、賛否が分かれるもののほうが広がりやすい側面もあります。日本の企業はこれまでクレームを減らす、なくすとい うことを重視してきましたが、そうしたものを多少許容するという姿勢を持つことが必要になってくるかもしれません。また、SNS上では、ネガティブな意見に対する「切り返しの巧さ」が好印象を集める例も出てきています。クレームの防止ではなく、クレームへの対応が、これからの広報の腕の見せどころではないでしょうか。
商品開発にしても、多くの人の意見を取り入れた“丸い”商品を作るのではなく、一人に深く刺さる尖った案を採用するような思考の転換が必要だと思います。