クリエイティブの現場には、絶対的な評価軸がない
MarkeZine編集部(以下、MZ):クリエイティブのように感性やセンスが問われる分野で脳科学の研究成果をベースに新サービスを立ち上げられた点が興味深いです。背景にはどのような問題意識があったのでしょうか?
大山:我々は2015年からニューロ情報を基にした広告評価の研究を進めてきました。そもそもの問題意識としては、クリエイティブの制作過程には大きく分けて次の3つの課題があると感じていました。
第一に、クリエイティブの客観的な評価を得るには、消費者へのアンケートやインタビューが基本となるので、時間もコストもかかります。ある企業では、広告クリエイティブの案が複数あがってきてから1つに絞るまでに中3日しか猶予がないそうです。この間に人を集めてアンケートやインタビューを行う余裕はありませんよね。多くの企業で、時間もコストも余裕がある時でないと、客観的にクリエイティブを評価できていないというのが現状あります。
第二に、クリエイティブの評価を得られたとしても、言語化できる範囲には限りがあります。乱暴に言ってしまえば、「好きか嫌いか」と誘発して言語化してもらうことになるので、言語化できない部分の感想や本当の印象がどうだったのかはわかりません。
そして第三に、定量的な評価が得られないという問題があります。たとえば、「AとBのどちらが好きか」と聞かれたとしましょう。仮にAのほうが好きだとしても、Bと比べて何倍好きなのか、その差はどのくらいなのか、これはなかなか表現できないですよね。
MZ:たしかに、あがってきたクリエイティブを見てマーケターが「ちょっと違う」と思っても、何がどう違うのかをクリエイターにうまく伝えられない、意思疎通が難しいという悩みを聞くことはよくあります。
大山:また、答えるのは人間なので、質問されたタイミングによって、同じクリエイティブでも評価がまったく違ってしまうということもあります。つまり、評価が一定していないんです。私たちは、「NeuroAI」という技術でこの課題解決に取り組んできました。これをより多くの企業で便利に使っていただけるようにクラウドサービス化したものが「D-Planner」です。
従来のニューロマーケティングとは一線を画す、脳解読技術に注目!
MZ:D-Plannerは、NeuroAIを核にしたソリューションなんですね。具体的な製品概要に入る前に、まずはコアとなるNeuroAIについて詳しく教えてください。
大山:NeuroAIは脳活動を推定するモデルで、脳科学分野の研究者の方々と協力して開発しました。教師データとしてfMRIの実計測データを用いており、これを機械学習にかけることで、fMRIによる撮像がなくても仮想的に脳活動を把握することを可能にしています。
この仮想脳は、音楽や動画といった視聴覚コンテンツに接した時に人がどのような反応をするのか、どのような印象を抱くのかを予測します。もう少し詳しく説明すると、視聴覚コンテンツに接した際の脳の状態をシミュレートし、その脳の状態から「どんな印象を受けたのか」「その結果、どんな行動を取るか」と、2段階で予測する技術となっています。
MZ:クラウドに仮想的な脳があり、それを使って広告クリエイティブを評価するわけですね。脳モデルを使うことで、どのようなメリットがあるのでしょうか?
大山:最大のポイントは、脳活動をもとにクリエイティブの質を定量化できることです。もともとインタビューやアンケートで行っていた「言葉にする」「文字を書く」という行動も、脳の信号によるものですよね。それを定量化したわけです。
もう一つは、人間のように揺らぎがないという特徴があります。先ほどお話したように、アンケートは人やタイミングによって評価が変わりますが、仮想化された脳は揺らぎのない絶対的な数値ですので、普遍的な評価基準として活用いただけます。
MZ:従来のニューロマーケティングとはどう違うのでしょうか?
大山:今までのニューロマーケティングでは、脳波計測が多く細かい情報が取れないため、たとえば「何が知覚されているか」といった具体的な計測はできなかったと思います。一方当社は、fMRIを使ってより詳細な情報を計測しているので、様々な単語レベルでの認知情報や購買行動・注意・記憶定着などを予測できます。さらに仮想脳にしているため、リアルタイムで解析結果を確認することも可能です。