SDGs、ソーシャルグッドの発信はここで差がつく!
MZ:SDGs、ソーシャルグッドの視点はPR・マーケティングにおいて重要になっていますね。本の中では2021年のカンヌライオンズでグランプリを受賞した米国の大手ビールメーカーAnheuser-Busch(アンハイザー・ブッシュ)のプロジェクトが紹介されていました。この事例を取り上げた理由について、改めてお話いただけますか。
米国ではオーガニック食品への需要が高まっているが、有機農法に移行するためには3年の月日がかかり、その間の生産高が減少してしまうため、農家は踏み切れずにいる。これを踏まえてAnheuser-Buschは「Contract for Change」と称するプロジェクトを開始。有機農法への移行期間中は大麦を25%高い価格で買い取ること、移行後は最初の顧客になることなどを提示し、地方新聞の広告などを通じて全米の農家に参加を呼び掛けた。すでに175人の農家が契約書にサインしている(参考:英語サイト)。
本田:オーセンティシティ(authenticity)を体現している例として取り上げました。この言葉には真正性、本物らしさといった意味があるのですが、PRの文脈では「その会社らしさを発揮しながら課題解決に取り組んでいるか」「問題提起するだけでなく、解決のために動いているか」といった意味合いがあります。
オーセンティシティが重視されるようになるまでの流れを、簡単に振り返っておきましょう。2012年ごろからソーシャルグッドが業界全体のトレンドになったのですが、「とにかく社会課題を押さえておけばよい」と少々安易に広がりすぎてしまったところがあり、揺り戻しが来たんです。それで、「この企業がこの課題に関与するのは納得できるよね」という空気が重視にされるようになりました。
現在はそれに加えて、「何をどこまで本気でやっているか」「発信を通じて顧客や社会の行動変容を起こしているか」が重視されるようになっています。「Contract for Change」はそのどちらの面でも、よくできた取り組みです。
MZ:確かに行動をともなっていて、PRの枠を超えているようにも見えます。
本田:はい。ですが農家の支援そのものに加えて、PRによって「支援」という事実を社会に増幅している。そう考えると、やはりこれはPR戦略なんです。もちろん商品にも関連していて、同社の「Michelob ULTRA Pure Gold」がオーガニックビールのリーディングブランドであることをしっかり印象づけています。
本には書いていないことですし、少し余談になりますが、「Contract for Change」のような取り組みは、実は日本の企業が以前からやってきたことでもあると思っています。農家さんと契約して、バリューチェーン全体に責任を持っているところは多いですよね。なのに「これは社会貢献なんだ」とCSR部門のみに活動を押し込めてしまい、コミュニケーション活動と結びついていないケースが散見されます。
MZ:もったいないですね。
本田:本当にもったいない。この例に限らず、日本企業には、うまくストーリーメイクすれば全社的な価値を高めるPRにつながったり、世界的に注目されるような活動が少なからずあります。ではカンヌで受賞するような企業と自社の差分はどこにあるのか。そのようなことを考えるきっかけにしていただけたら、という思いもあって、この事例を紹介しました。

解くべき問いは、First WhyからSecond Whyへ
MZ:もう少し、オーセンティシティに関する話をさせてください。先ほど「その会社らしさを発揮した課題解決」という要素を挙げていらっしゃいましたが、難易度が高そうです。自社が解くべき課題というのは、どうやって見つけていくのでしょうか。
本田:おっしゃる通り、この点を突き詰めていくのが今とても大切なポイントになっています。SDGsの認知度も上がって、「その問題を解決しなければならない理由」はかなりの程度可視化され、合意形成も進んでいます。それにともない企業が解くべき問いは、“First Why”ではなく“Second Why”、つまり「なぜ我が社がその問題に取り組むのか」「なぜ我が社がそれを解決できるのか」に移行しつつあります。
必要になるのは、現代の社会課題とわが社らしさの結びつきを探していく作業、つまり、可視化されている社会課題A、B、C、D……と、わが社らしい要素E、F、G、H……を接続していく作業です。特に歴史ある企業では暗黙知になってしまっている部分も多いので、私のような外部の人間も加わりながら、対話の中で「なぜ」を繰り返すことで、答えを探っていきます。