SNSの影響力が増す今、PRの手法にも変化が
MarkeZine編集部(以下、MZ):今日は『最新版 戦略PR 世の中を動かす新しい6つの法則』の内容に触れながら、お話をうかがいます。本書ではカンヌライオンズ国際クリエイティビティ・フェスティバル(以下、カンヌライオンズ)の2021年の受賞作を複数取り上げて、PRにおけるクリエイティビティの重要性を解説していらっしゃいましたね。
本田:本書の旧版(2017年4月刊行)でもお伝えしていたことですが、クリエイティビティはますます大切な要素になっています。
もともとPRはジャーナリストが作った業界ということもあって、どちらかと言えば真面目で、広告の人たちのほうがクリエイティブなアプローチが得意という風潮がありました。ですが、インターネットやSNSの登場で情報流通の経路が変わり、PRのお作法にも変化が生じています。
PRを「ある情報を社会に増幅させる企て」とするならば、いわゆる口コミマーケティングやシェアラブル・コンテンツ(拡散性の高い情報)の影響力は無視できません。今までのようにプレスリリースを作って、“真面目な情報”として記者さんに渡したり、記者会見をやったりという手法がなくなるわけではないのですが、そうではないアプローチも必要になっており、そこでクリエイティビティが重要になると捉えています。
MZ:情報流通の変化にともなって、新しい手法が求められているのですね。
本田:はい。ただ、ここで言うクリエイティビティは、いわゆる制作におけるクリエイティビティとは少し違っていて、本の中では「とんちクリエイティブ」「やられた感エフェクト」といった言葉で紹介しています。
「やられた感エフェクト」が情報を増幅させる
MZ:クリエイティビティが光る事例として紹介されていたのが、カンヌライオンズの2021年の受賞作である、バーガーキングの「The Moldy Whopper(カビの生えたワッパー)」でしたね。
2020年2月、バーガーキングは同社の主力商品であるハンバーガー「ワッパー」が日数の経過に従ってカビだけになっていく様子を、動画や屋外広告で公開。インパクトの強いビジュアルは、世界中のニュースで取り上げられSNSでも拡散した。この発信を通じて同社は、「食品、特にファーストフードには添加物がたくさん使われている」という世の中の認識に対し、「バーガーキングの商品は人口防腐剤を使用していない」と訴えることに成功し、売上高14%アップ、ポジティブな感情が88%アップといった結果を残した。
本田:はい。「まさか食品を扱う企業がこんな伝え方をするなんて」という驚きがありますよね。PRで求められるクリエイティビティとは、ただ絵面がきれいとか面白いということではなく、まさにこのワッパーのような「やられた!」「その手があったか」という機知性なんです。そういうものを見たり聞いたりすると、誰かに言いたくなる。自分が経験したことと、同じことを再現したくなるんですよね。
MZ:本の中にも、「とんちの利いた話というのは、それ自体がすでに『シェアラブル・コンテンツ』」という記述がありました。
本田:「うわ、こりゃ一本とられたわい!」という読後感や印象を残すことが、情報を伝播させるうえですごく大事なことなんです。
この事例について付け加えると、大前提として、扱っているのは真面目な話題です。食の安全やトレーサビリティーの話で、SDGsにも通じてきますよね。でも、そういう話はすでに世の中に溢れかえっていて、埋もれてしまってなかなか届かない。普通に伝えていては目に留めてもらえない情報をアイデアによって伝えた点が、素晴らしいと思います。