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来たれ!デジタルマーケター、音楽業界の現状と課題

今、令和維新が起きている? ヒットの方程式が崩れた音楽ビジネスでマーケターが意識すべきこと


ヒットまでに越えるキャズムが増えた

梶:もう一つ変化として感じることは、チャートへの人々の興味関心が以前より薄れたことです。チャートイン=ヒットの方程式はもう成立していません。

山口:昔はオリコンシングルチャートに集約されてましたよね。そこに入れば、マスメディアが注目する。露出が増えてまたチャートが上がる。するとテレビ番組からもオファーが来る。でも、今はユーザーに一番届くチャートがないですよね。

梶:いわゆるお墨付きがないですよね。どれも一つのバロメーターです。オリコンは主にフィジカルマーケットのバロメーターの意味合いがいまだに強いですし、LINEミュージックやTikTokは若い人の動きを見る指標として役立ちます。

 それらを分析してわかったのですが、今のヒットは、影響力のある人が「これいいよ」と鶴の一声的に紹介して注目が集まるケースが非常に少ないんです。普通の人たちが集まってコミュニティーができて、そこでお祭りが生まれる。その熱が外に広がって初めてSNS上で影響力のある人がそのトレンドをキャッチして、紹介することで知らなかった人たちにも火が点いて、最終的にテレビに取り上げられることが多いです。つまり、越えなければならないキャズムが複数あるわけです。

 たとえば、wacciの『別の人の彼女になったよ』という曲。

wacci 『別の人の彼女になったよ』

 2020年の夏にリリースされたのですが、年を明けてから再生回数が急増してヒットしました。理由を分析すると、きっかけのひとつはYouTubeの一つのコメントだと明らかになりました。無名の書き込みが共感を呼んで何十万もいいねがついて、そこから少しずつサブスクの再生回数やCD売上に影響を及ぼしていたんです。

マーケターは魚群探知の精度を上げるべき

山口:キャズムが増えたとのことですが、越えるためのプランニングは非常に難しいのではないですか?

梶:いろいろと試して、シンプルに考えたほうが正解にたどり着く可能性が高いと思うようになりました。その考え方のひとつが、ファンベースマーケティングです。

 私は釣りが好きなので釣りで例えますが、以前は広く浅い情報発信の感覚で投網を投げれば良かったんです。一転、今は1本釣りまではいきませんが、広く伝えるのではなく狭く濃く、まず攻める。攻める先がどこなのか、フォーカスを定めるのがすごく難しいです。

山口:魚群探知の精度が高いマーケターが良いマーケターというわけですね。

梶:その通りです。常にアンテナを張って、世界のどこで何が動いているかを感知する能力が大切です。黒潮の動きによって回遊する魚の群れがまったく変わるように、作品や時代の空気感によって人の動きは変わります。大局を見て、仮説を立ててまずは釣りざおを1本たらしてみる。釣果が出たら船団で向かうんです。

 時代の空気や、人の置かれてる立場・状況を鋭く察して、それとわからないように作品に転換していく天才がアーティストだとすれば、それを正しくキャッチして、正しい届け先を見つけていくのがマーケターです。この感度がないと戦えないですね。

山口:感度はどうやって磨くんですか?

梶:私の場合は、うまくいってる人の話を聞きに行きます。ヒットしているものには世の中を動かす原動力がありますから、その渦中にいる人の考え方などは非常に参考になります。ジャンルや商材は問いません。むしろ、音楽からは離れますね。スタートアップの話は特に興味深いです。ある意味でルールを破っていくことが彼らの使命なので、我々のようにルールに縛られてしまっている立場からすると刺激的です。

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デジタルでヒット曲が出た理由とは?

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この記事の著者

山口 哲一(ヤマグチ ノリカズ)

音楽プロデューサー/エンターテック・エバンジェリスト/大阪音大特任教授/iU超客員教授
エンターテック分野で起業家育成と新規事業創出を行うスタートアップスタジオStudioENTRE代表。日本音楽制作者連盟理事、「デジタルコンテンツ白書」(経産省)編集委員などを歴任、コンテンツビジネスに提言を行う。 プロ作曲家育成「山口ゼミ...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

伊藤 桃子(編集部)(イトウモモコ)

MarkeZine編集部員です。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2021/10/25 18:07 https://markezine.jp/article/detail/37278

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