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1から学ぶインサイト発掘の手法

インサイトをベネフィットに翻訳し、本質的な製品開発を

 近年マーケターの間でよく使われるようになったインサイトという言葉。しかしインサイトを導き出す具体的な手順や、それを製品に反映させていく過程は、あまり語られてこなかったのではないでしょうか。本記事では、ユニリーバ・ジャパン/ラフラ・ジャパンの木村氏が、得られたインサイトをベネフィットに翻訳し、製品企画へとつなげる流れを、例を挙げながら説明します。

インサイトをベネフィットに翻訳した上で、製品開発に進む

 良質なインサイトを得ることは大切ですが、画期的な製品を生むためには、さらにもう一段深く考える必要があります。具体的には、得られたインサイトをもとに、ベネフィットを定義付けしていきます。

 前回、男性用スキンケアカテゴリのブランドマネージャーに就任したという想定で、消費者インタビューから、次のようなインサイトを導き出しました。本記事ではこれを用いて、ベネフィットを導き、製品開発に進むまでを説明してみたいと思います。

前回導き出したインサイト

1. 男性が一番肌状態を整えたいのは朝である。なぜなら一日の中で最も自分の顔をまじまじと見る瞬間は仕事に行く準備をしている朝だから。

2. 男性は肌のキメや乾燥よりも、顔色やむくみの状態を気にする。なぜならお酒を飲んだ翌日や仕事で遅くなった翌日などは、肌の表面の状態よりも、顔の血色やむくみのほうが影響が出やすいから。

3. 美容液は良いものと考えているし、使用したほうが良いと思っている。ただし、化粧水や乳液に加えて使用すると肌がべたつくので、ステップを増やしすぎたくはない。

→その結果、このインサイトに応えるために、むくみを解消したり、顔色を明るくする、朝専用の男性スキンケア美容液の開発に着手することに。

ベネフィットをどのように定義付けするのか

 得られたインサイトを基に「朝専用の男性スキンケア美容液」を開発する、と想定しましょう。どのような付加価値があれば、新しく消費者に受け入れられるでしょうか。ここで行うのは、ベネフィットの定義付けです。前回お話しした、インサイトとベネフィットの私なりの定義を再掲します。

インサイト:消費者の既成概念によって隠れている、まだ言語化、顕在化されていない消費者ニーズ

ベネフィット:消費者の既成概念を覆し、消費者の顕在化されていないニーズ(=インサイト)に応える効果感を提供すること

 先に結論を述べると、肌の乾燥や肌荒れを治すものではなく、“朝、外出前の顔色の状態を明るくし、むくみを抑えること”をベネフィットと決めました。

 インサイトの解析から、ターゲット男性は、女性のスキンケアのニーズとは異なり、肌を根本から治そうというイメージよりも、朝、仕事に行く前の顔色の状態を改善することを求めていることがわかっています。また、美容液への抵抗はないものの、ステップを増やしたり、ベタつくことへの抵抗があることを前提に、研究開発を進めていきます。最終的には、炭酸配合の美容液が、この便益を満たすために効果的な処方だと判断しました。炭酸成分が肌の血行を良くし、それがむくみや顔色の明るさに効果があるからです。また、美容液の処方を、ベタつかないさらったした化粧水のような使用感を目指しました。美容液本来のこっくりとした処方は、肌にテカリやベタつきを与えてしまうので、朝使用するには不向きだからです。

 もちろんスキンケアは薬事の規制があり、ダイレクトに伝えられることと、そうでないことがあります。ここで大切なのは、インサイトに応えるベネフィットをきちんと有しているか否か、つまり効果があるか、ということです。マーケターがインサイトを発掘し、ベネフィットをきちんと定義付けした上で、製品開発に進まないと、インサイトだけを意識したギミックな製品になってしまったり、インサイトは明確でも、機能がまったくそれに応えていない、といったことが起こってしまいます

 今回の男性化粧品で、良くない例を挙げるとすると、インサイト部分の「ステップを増やしたくない」という部分に特化して、オールインワンの製品訴求をしたり、「朝」に着目し、朝を想起させるメントール成分を配合するのみで処方は変えていないにもかかわらず、「朝用スキンケア」などと製品訴求を行う、といったことです。

 メーカーやブランドとして本質的に大切なのは、インサイトに基づいたベネフィットを間違いなく有した製品開発ができるかどうかです。コミュニケーションが先行した、ベネフィットが弱い製品は、ギミックであり、決して中長期的に売れることはありません

 以上のように、インサイト発掘からベネフィットの定義付けまでを行いました。これはあくまで一例で、実際のシーンでは、インサイトを出す時も、新しいベネフィットを考える時も、あれこれみんなでアイデアを出し合います。会議室で一生懸命考えることもあれば、お茶やコーヒーを飲んでリラックスしながらアイデアを出すこともあります。なお、私は、最低でも月に一度は店頭に立って自ら店頭販売を行っています。販売をしながら消費者の動きを見たり、話を聞くことができる、インサイトを発掘するためには、最高の環境です

 マーケティングはクリエイティブな仕事と表現され、デザインや広告制作に注目されがちですが、個人的には、こうしたインサイトを発見してから、ベネフィットを定義していくまでの過程こそが、最もクリエイティブな仕事であり、マーケターの真価が問われる仕事の一つだと思います。特にベネフィットを考える時に、いろいろなアイデアがチーム内で飛び交うのは面白いですし、それぞれ違うバックグラウンドのマーケターが集まっているとなおさら面白くなります。本記事では、アイデアの出し方やブレーン・ストーミングの手法には触れませんが、ブランドマネージャーには、アイデアを出しやすい環境作りをしていくことが求められます。

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この記事の著者

木村 元(キムラ ツカサ)

株式会社Brandism代表取締役ユニリーバに2009年に入社。約12年間、ラックスやダヴなどのブランドマーケティングを経験。国内を中心とした360°のプロモーションから、グローバルのブランド戦略や製品開発まで、幅広く従事。ロンドン本社にてダヴを担当し、グローバル全体のブランド戦略設計をリードした後...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2022/02/21 08:00 https://markezine.jp/article/detail/38131

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